2004年に高野秀行が船戸与一の取材旅行に同行した記録を、当時のミャンマー軍情報部を柳生一族に、ミャンマー軍主流派を徳川家になぞらえて語る異色の旅行記。
まず驚きなのは、高野秀行のビザが下りたということだ。世界で唯一ワ州に長期滞在しアヘン栽培を記録した『アヘン王国潜入記』の著者である高野は、てっきり民族独立派のシンパと認定されて入国を拒否されるものと思っていたが、あっさりビザが下りてしまい拍子抜けとなる。
独裁を維持する独自の情報部、それもアジアというと北朝鮮の保衛部のように冷酷な印象を持ちがちだが、意外と緩い。ガイド役の情報部員は英語も不得手でむしろ愛らしい位だし、アウン・サン・スー・チーにまつわるセンシティブな話もしてしまう。
鉄の掟や、厳しい内規の存在は感じさせない。素朴なのだ。現状の軍主流派の所行からは想像もつかない牧歌的な光景である。
2000年代初頭までは本当にこうだったのかもしれない。高野秀行の文章は、現地の言葉で現地の人と話すことでしか得られない生活感がある。
柳生一族というのは突飛な比喩であるが、生活感が「柳生一族」という比喩に説得力を与えている。こういう比喩を思いつける人間になりたいと思う一冊だった。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
紀行・旅行
- 感想投稿日 : 2021年3月28日
- 読了日 : 2021年3月28日
- 本棚登録日 : 2021年3月28日
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