AIの雑談力 (角川新書)

著者 :
  • KADOKAWA (2021年2月10日発売)
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本棚登録 : 25
感想 : 2
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レーベルも帯も普段あまり買わないタイプの本なのだが、著者の名前を見て迷わず買った。私は大学生の頃、東中先生の講義で自然言語処理の面白さを知り、なんだかんだで現在は検索システムの開発を長くやっている。お世話になった先生の初の一般向け書籍ということで一気に読んだ。

略歴にもあるが東中先生はNTT研究所で長く質問応答システムの開発に従事していた研究者で、忙しい合間を縫って大学で自然言語処理入門の講義を持ったり本を書いたりしていた凄い人である。今や自分が新卒~若手向けに講義資料を作る身になって感じるが、大学での講義資料は本当によく作り込まれていた。

つまり何が言いたいかというと、難しいことでも正確さを落とさず、かつ平易に書く能力が非常に高い先生なのだ。

自然言語処理は2010年代中盤から後半にかけてディープラーニングの勃興により大きく変化した。たとえば新井紀子先生が主導していた「東ロボ君」プロジェクトは、ディープラーニング以前には壁にぶち当たっていた。それがディープラーニング以降では以前では考えられなかった進歩を遂げている。

だからといって、従来の自然言語処理手法が役に立たないわけではない。「対話」は画像処理のように正解が決まっているタスクではない。問題の設定には工学的な視点以外にも必要になる。このために深いドメイン知識、地道なタギング、タグ設計など、様々な要素が必要となる。これは私が現在仕事にしている検索でも似たような部分があり、(工学的な意味での)評価が難しい自然言語処理全般に言えることだろう。

実際、本書において雑談AIの評価手法としては Extrinsic な評価を採用すべきだとされており、この辺りは検索技術者としても大きく同意できる。検索においても Extrinsic な評価はよく用いられる…というより Intrinsic な評価では Hack しやすいため、人間的なシステム評価とはそぐわない。この視点はサービス開発に近い部分に長く居た研究者ならでは、と感じる。

全体として、平易に雑談AIや対話応答の話をしつつも、「UXを上げるにはどうすれば良いか」という視点はブレることなく貫かれている。AIの知識がない専門外の人でも読めるが、サービス開発に携わるエンジニアが読んでも学びが多いだろう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: IT
感想投稿日 : 2021年4月6日
読了日 : 2021年4月6日
本棚登録日 : 2021年4月6日

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