熱源

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  • 文藝春秋 (2019年8月28日発売)
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明治から大正・昭和にかけて、ロシアと日本の狭間で、種族としての誇りを持ち、自分たちの伝統や慣習・文化を守っていこう苦悩するアイヌの人々

高度に発達した文明を持つ我々には未開人を適切に統治し、より高次な発達段階へ導く必要と使命がある。彼らは我らによって教化善導され、改良されるべきとする白人至上主義ともいえる優勝劣敗の考え方に翻弄される人々

文明に潰されて滅びる、あるいは呑まれて忘れる。どちらかの時の訪れを待つしか自分たちにはできないのか。別の道は残されていないのか。我々は「滅びゆく民」なのか、南極探検隊員に名を連ね、アイヌの名を残そうともするヤヨマネクフ

「南極に立った人間は、世界でもそうはおらん。君らアイヌが見直されるきっかけになるだろう」
という大隈重信に対して
ヤヨマネクフは、答える
「見直される必要なんてなかったんですよ、俺たちは。ただそこで生きているってことに卑下する必要はないし、見直してもらおうってのも卑下と同じだと思いましてね。俺たちは、胸を張って生きていればいい。俺たちは、どんな世界でも、適応して生きていく」

強いも弱いも、優れるも劣るもない。生まれたから、生きていくのだ。すべてを引き受け、あるいは補い合って。生まれたのだから、生きていいはずだと

腹の底から、湧き上がってくるような力を感じた。民族としてこれだけの誇りを持っているだろうか。また、世界の多くの少数民族に対して同じ人間として敬意を持っているだろうかと自分自身に問い直した

小学生の頃、石森延男氏の「コタンの口笛」を読んだことがある
主人公の少年が、自分の体を傷つけて、「流れる血の色は、君たちと同じだ」と差別する友達に対して、訴えている場面は、いまだに忘れられない

この本を読んで、そんな遠い記憶も蘇ってきた

「私たちは滅びゆく民といわれることがあります。けれど、決して滅びません。未来がどうなるかは誰にもわかりませんが、あなたの生きている時代のどこかで、私たちの子孫は変わらず、あるいは変わりながらも、きっと生きています。
もし、あなたと私たちの子孫が出会うことがあれば、それがこの場にいる私たちの出会いのような幸せなものでありますように」
お互いに人間として尊厳を持って付き合っていける世の中でありたい、そんな人でありたいと思う


読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年2月8日
読了日 : 2020年2月7日
本棚登録日 : 2020年2月3日

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