異邦人(いりびと)

著者 :
  • PHP研究所 (2015年2月24日発売)
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たかむら画廊の青年専務・篁一輝と結婚した有吉美術館の副館長・菜穂は、出産を控えて東京を離れ、京都に長期逗留していた。妊婦としての生活に鬱々とする菜穂だったが、気分転換に出かけた老舗の画廊で、一毎の絵に心を奪われる。画廊の奥で、強い磁力を放つその絵を描いたのは、まだ無名の若き女性画家。深く、冷たい瞳を持つ彼女は、声を失くしていた―。京都の移ろう四季を背景に描かれる、若き画家の才能をめぐる人々の「業」。『楽園のカンヴァス』の著者、新境地の衝撃作。
「BOOKデータベース」より

美術館に行きたくなった.
もう長いこと美しい情熱に触れていない.無性に心が乾いていることを感じた.涙がこぼれた.いろんなところに深いふかい溝を感じた作品だった.
本の中で紡がれることばから頭の中に浮かび上がる絵はきらびやかで美しく、紅葉の葉一枚が、苔むした岩一つが、目の前にあるような感覚に陥るような文章だった.
激しい感情は感性を守る鎧、譲れないものをもつものは強いと思った.
京都はよそ者には不親切な街だ、よそ者を受け入れない街だ、とよく聞く.それは一面事実であるけれども、そうではない部分がある.京都のうわべだけを見るものには開かれない扉があるのだろう.求める心が強ければ開く扉もある.
才能は裕福な家の子どもに降りてくるばかりではない.才能を見出す人がいて後世に残るものもある.絵から情熱を感じるたびに、作者だけでなく、それを残そうとした人々へ尊敬の念を禁じえない.
嗚呼、美しいものに触れたい.

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 書籍
感想投稿日 : 2015年8月26日
読了日 : 2015年8月26日
本棚登録日 : 2015年8月26日

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