階段のある空

  • 文藝春秋 (1987年8月20日発売)
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震えた。濃密な透明さに心臓を拉致された。
花の香りに、湖の冷たさに、風の唸りに彼らは目で触れている。時を逆送しながら昆虫の眼や魚の眼、または望遠鏡のレンズ、それとも夢の目で世界を多層的多面的に捉えているといったらいいのか。
意識が溶解し、身体が拡散する瞬間に顕現する黙の景があった。堅固な孤独が石英の粒子のように舞い上がり、あたり一面に反射し合い光る。その一つ一つが彼らの目となって、光をあらゆる方向に弾く。届く距離は短いけれど、弾かれた光はどこへでも行くので在るものを全て見る。見えないからこそ見えるものを視る。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 日本
感想投稿日 : 2018年12月1日
読了日 : 2018年12月1日
本棚登録日 : 2018年12月1日

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