筆名通りの文章を書く人だった。玲瓏とした氷。
青白く冴え冴えと輝く氷輪を思わせる。それでいて時おり、鮮烈な色香を匂わせ、音色を響かせ、色彩を流している。
この作品集に登場する女たちは記憶の淵に、窓ガラスの向こうに、絵画の中に、霧雨の先に、夜の涯てにいる。濡れたような燐光を放つ婉艶な蝶の翅を持っており、ゆらゆらと燃え立つ陽炎みたいに現れては消え、追跡者を幻惑する。
けれども、男は追いかけているのではなく、女に引き寄せられているのではないだろうか。淋しさに心を巣食われた女が男を呼んでいるのではないだろうか。女の胸に飛び込んだ男は冷ややかな翅に包まれ溺れてしまう。夢と現を、彼岸と此岸を往き来するが、こちらに戻れるかどうかはわからない。
すこぶる好みの怪奇・幻想作品集。【乳母車】は青の妖しさに取り憑かれ繰り返し読んだ。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
日本
- 感想投稿日 : 2015年12月11日
- 読了日 : 2015年12月11日
- 本棚登録日 : 2015年12月11日
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