飲みものに例えるならキンと冷えたラムネ。千の光を閉じこめた泡がしゅわしゅわと弾けている。だからといって眩しすぎない。色付きガラスが奇妙とも絶妙とも言えるフィルターになっていて、木漏れ陽みたいにおだやかな光として輝いている。
月夜彷徨者、あるいは虹のたもと探究者の睡眠と混沌。世界の秘密を解明する新鮮な驚きと喜びと戦き。誰も知らない夢のなかの間延びした不思議な時間。どこまでもいつまでも続く夏休み。
愛らしく、可愛らしい作品集でした。

『SIESTA』、『サイクリングライフ』、『SLEEP WALKER』が好き。

2020年9月22日

読書状況 読み終わった [2020年9月20日]
カテゴリ 日本

再読。眠りに近づいていく者の、氷の震えみたいなかすかな呼吸をまねるとき、ほんとうの自分自身はここにおらず、ただ、魂の脱け殻の肉体をすわらせて、昼でも夜でも関係なく、目を開けたまま見られる夢を見ている。
きみは眠耳をぴんと立てて、足裏から現実を蒸発させて、瞼を透かす強烈な光を求め、不確かな骨格で暗喩の円周へと移動していく。
時間、空間、温度を越えて覆っていくのは幻想的なうつくしさと幻想としてのうつくしさ、そして現象としてのおそろしさ。耳鳴りがするほどの静けさが騒々しい。にぎやかな孤独の王国で、今日もおやすみ。

2020年9月5日

読書状況 読み終わった [2020年9月5日]
カテゴリ 絵本・児童書
タグ

俳句に少し興味があるだけの自分程度の人間では全く太刀打ちできない領域や密度/精度での俳句論。
「現」実と表「現」が言語として「現」出する「現」瞬間との対峙、そして共感覚でも超幻想でもない共幻覚としての精神の季節。五十音図の外側の景色を五十音図に押し込めて尚且つ五七五という定型に流し込むことの歪さと自由度。イメージとは言葉と言葉との衝突の発火であり、常凡の写生は五七五と季語などを纏っているだけの、ひとつの屍である。稲妻のように地面を時間を自分を撃ち抜く言語の豊かさと揺らぎ。
私を、私に、私の全身全霊全透明なり。

2020年9月5日

読書状況 読み終わった [2020年9月5日]
カテゴリ 日本

再読。狂人たちの遊戯。遅疑と逡巡。甘美なる空虚。眠れない夜、影たちのことばに触れたくて本書を紐解いた。あの一文が現れるころ、睡魔が私を迎えにくることを期待していた。『無限に続く前置きにひっかかってる』始まりも終わりも知らない白紙の原稿用紙。進みも戻りもしない宙吊りにされた時間。それらにくるまれて私は意識を手放したかったのだけれど、あの一文へ近づくほど、気は急いて、目は冴えてゆくので、眠りの腕は離れていってしまう。そうして私は私の眠りを失い、おしだまった部屋の中で彼女の睡りをたどろうとする。
《2016.01.18》

2020年8月29日

読書状況 読み終わった [2020年8月22日]
カテゴリ フランス

再読。麻酔を打たれたみたいに静かな夜に。幽霊になった男の話を眠りと覚醒の浸透膜を通して聞いていた。
欠けてゆく月。その目は少しずつ細くなり、ゆっくりと瞼を閉じて、やがて完全に消える。新月のように姿を暗ました男の像を再生するたびに、それは記憶ではなく幻影になってゆく。眠りに憑かれて夢に目覚めるとき。世界は反転し、あちらとこちらとどちらがうつつか、自分でも統御することができなくなる。眼差しは現実に触れることなくうつろに彷徨う。それなのに、自分が幽霊になっても構わないと思ってしまうほど、この作品は恐ろしく美しい。

2020年7月23日

読書状況 読み終わった [2020年7月23日]
カテゴリ 芸術

《子どもSF》と銘打たれているけれど、子どもに向かっているとは思えず、ほとんどホラーである。佐野美津男は自分好みの気が狂った「たいへんおっかない」話を書くので堪らないし耐え難い。
怖さとは孤絶なのだ。大人も子どもも、現実や、犬すらも誰一人、何一つ信用できない絶望的なまでの圧倒的な孤独が宙にぽっかり穴を空けて、その暗がりへ無尽蔵に否応なく登場人物も読者さえも放り込んで放置する。救いがないとかいう次元を軽々と超えた場所で冷たいくらいに乾き切った結末が身も蓋もなく露わになっていて、ただただ、寒い。
挿画は中村宏。

2020年7月23日

読書状況 読み終わった [2020年7月18日]
カテゴリ 絵本・児童書

子どもは子どもを患って大人は大人を煩わす。誰もが独りで孤独が孤独を貪って沼みたいになった孤独の泥をぶつけあって見向きもしない。悪魔がいることが自然な世界で悪魔は悪魔らしく非情に非道でノミは賢しく簡単な命令に従い短い命を失う。子どものころに読めばトラウマになるだろう話だけれどトラウマが欲しいわけではないので大人になってから読んでよかった。
子どもの不完全さの方が大人の不健全さに比べたらまだマシなのだ。それぞれがそれぞれの方法で幸福になる手段とみんなで幸福を分け合う世界とどちらが正しくてどちらが楽しいのだろう?

2020年7月11日

読書状況 読み終わった [2020年7月11日]
カテゴリ 日本

私のなかに「私たち」を作り出し、その私たちが共有するスペースが短歌としての許容なら、中城ふみ子の歌は明らかに私たちのなかの「私」が強過ぎる。
それ故に孤絶してうつくしく、孤高として哀切。赤裸々というにはあまりに赤裸々で、ロマンティックな劣情が圧し掛かってくる。他人の日記を覗き見ているような後ろ暗さがあり、そこを仄暗く照らす明かりは白く冷たい。音が音を追い言葉の余韻と陰影を濃くしている。切除された部分の痕跡は言葉を持ってしても覆いつくせないほどの喪失の昏い穴。昏ければ昏いほど、言葉が照らす生と死は光り輝く。

2020年7月11日

読書状況 読み終わった [2020年7月4日]
カテゴリ 短歌

なんとまあこれは、超絶に面白く、筆舌に尽くしがたい。行間どころか天地に小口・ノドに至るまでを読み/詠み取り奥行きを増しどこまでも拡がりゆく思考風景。可能性のうちに留まっている余白を言語の形で予言し得る詩語のあやかし。触ってはならない領域が在り触らないことに拠って保証されるもう一つの流域がある。あらゆる箇所に偏在するオルタナティブ劇を型のごとく「死だ!」、「詩だ!」、「羊歯!」と同/誤変換するかは別問題。非在と不在のメタモルフォーゼ。四角四面のその先でまた出会うその時までは、アウフ・ヴィーダーゼーエン!

2020年7月3日

読書状況 読み終わった [2020年7月3日]
カテゴリ

自分がSF音痴だからなのか、たいへんSFらしいSFだと思いました。
「読書はあまりにたくさんの時間を取るし、そのあいだずっとほかの誰かの頭のなかにはいりこんで過ごすことになる」いわゆる不健全で孤独な作業だ。でも、だからこそ、「精神と心は、おもしろいことに、時間を超越する」。それは個と他や空間さえ超えるのかもしれない。
生理的な部分と理性的な部分から成り立つ細菌学的な認識と、言語的な部分と想像的な部分から織り成す遺伝子的な理想、それが個人的な生活を基盤に構成され、構築されているところがよかったです。

2020年6月20日

読書状況 読み終わった [2020年6月20日]
カテゴリ 英米

再読。雨の音を聞きながら。
堰を切ったようにとめどなくあふれる言葉の連なりは、水水しく、清艶にして典雅である。時間の幕をくぐりぬけながら見る夢のなかで、いくたびも形を失くし、形を変え、流れ落ち、死を経験する。死とは、失われることが前提で書かれた言葉をつかむこと。けれども目覚めると死はまだ遠い。

水が水に流れていくのならばまた言葉も言葉に流れていくのだろう。わたしは流れた跡に目を凝らす。ぼんやりとした輪郭さえとらえきれないうちに消えていくが、わたしの胸には生まれたばかりの唇の痕跡が金魚のように泳ぎ回っている。

2020年5月6日

読書状況 読み終わった [2020年5月6日]
カテゴリ 日本

ポーランドの芸術家、スタシスの画集。
空に浮かんでいた月は夜の領域から滑り落ち、台風の目みたいな夢の領域にやって来ている。そこでは、まわりの喧騒が高まるほど中心は静けさを増していく。手を伸ばせば触れられる距離にある月は、らんらんと目を光らせ、眠っている畑に星屑の種を蒔き、お腹を空かせた猫には月光のミルクを、春を待ちわびる牛にはあたたかな風を届けてくれる。誰もが持っている自分だけのお月さま。少し太った今日の月は昨日の月とは違うけれど、わたしはその瞳を見れば、わたしの月を他人の月と取り違えることはないのです。

2020年5月3日

読書状況 読み終わった [2020年5月3日]
カテゴリ 芸術
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佐々木マキの挿画が本書の魅力を倍増させていると思う。
マッシモ・ボンテンペルリ。
唱えるとゴム毬がうまくつけそうな名前のイタリア人はジャーナリストで小説家。佐々木マキは絵本作家にして漫画家。二人の共通点はおしゃれナンセンス詩人であること。
物語と画の親和性の高さには驚嘆するしかない。

鍵盤一叩きで町は吹き飛び、瓶一振りで世界の果てまで連れ去られる。
今何が起きた?
混乱したまま海の寛大さと繊細な美しさを見せつけられ、心をわしづかみにされる。
幻想、怪奇、ユーモア、ナンセンスをごたまぜにした遊園地みたいな23篇。最高です。
《2016.06.22》

2016年6月22日

読書状況 読み終わった [2020年4月12日]
カテゴリ イタリア
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中村宏については、佐野美津男の児童書に不気味な挿絵を描いている人程度の認識だったのだが、美術館で《車窓》の前に立った瞬間、わたしの眼は魔力をかけられたように釘付けになった。まばたきのあいだに一世紀を駆け抜けるような疾走感。単眼、相貌、セーラー服、蒸気機関車。生は性に絡め取られ美は醜に嬲られる。血はさらに血となれ、呪はさらに呪となれ。たえがたき現実を阻害し、たえまなき超現実を損傷する。革命のような芸術を虫ピンで刺して標本し、息絶えた芸術の形骸を蘇生する秘儀。カタストロフを引き寄せる飲み干す遠点。力そのもの。

2020年3月13日

読書状況 読み終わった [2020年3月13日]
カテゴリ 芸術

自分の顔に誰かの貌を投影して喋り出す。独り言のようで他者との対話でもある。自己から他者は幽体離脱みたいに離れて独り言に終始していたり、独り言同士で対話になっていたり、或いは混線して会話になっていたり。声が被る多重録音的な言語が島を巡り多面的に語っているような気配を保ちながら自己へと却っているだけの気もする。言霊ではなく言葉の木霊だろうか。懐かしくも妖しく怪しい響き。虚構は虚構であって虚偽ではなく、虚構と現実の境目は曖昧で膨れ上がり捲れ上がった現実から生々しく気の利かない粉飾と虚構が噴き出す、島々の果てまで。

2020年3月7日

読書状況 読み終わった [2020年3月7日]
カテゴリ

箱舟としての言葉。ただ一人の、たった一つの。
言いたいことを言うという全能感と聞きたいことを聞くという甘美さから言葉を剥がすこと。

わたしは物語の中に救いや癒しのあることが重要だとは考えていない。いつでも読み手が勝手に救いや癒しを見出して、勝手に救われて癒されているだけなのだ。でも、世界はその身勝手さを許すぐらいには寛大であってほしい。
届くとか届かないとか、結果に左右されることのない届けるという意思であり、伝わる伝わらないという部分を度外視した、伝えるという意志によって支えられている濃やかな祈りと命の物語。

2020年3月1日

読書状況 読み終わった [2020年2月28日]
カテゴリ 日本

サーカス。
その言葉を聞くだけで、たちまち頭の中に巨大なテントが張られます。ある日忽然と現れ、異様なまでの存在感を放つけれど、何事もなかったかのように去っていくサーカスは夢そのもの。
景色がぼんやり霞み、時間がゆっくり進む霧の中には夢の中へ続く道があるのです。迷ってしまっても心配はいりません。水粒の隙間を縫うようにして響いてくる楽しげで陽気で調子外れの音楽が客席まで私を導いてくれるでしょうから。目がチカチカする原色のスポットライトの下で繰り広げられる一風変わった演目。誰もが心躍らせるサーカスがここにありました。
《2016.04.27》

2020年2月16日

読書状況 読み終わった [2020年2月1日]
カテゴリ 絵本・児童書

稲垣足穂の随筆の中に「片仮名の総数は111、俳句は17字、すなわち111の17乗通りの17字配列が可能であり、加藤郁乎流に言うとその全てが俳諧として成立する。」というような文章があったけれど、本書を読むと戦きしかない。

夢のドッペルゲンガーとしての言語。言語の身体としてのえくとぷらすま。「む」を切開するとき、音は「夢」と「無」に分断される。原因と結果を浄め、世界を雪ぐ得体の知れない進化の風が吹き、間を攫い、魔を祓う。あらゆる言語を繋ぐテレパシーのような無を求めて、夢から夢へ。音律と文字の交配で世界を孕む。

2020年1月18日

読書状況 読み終わった [2020年1月18日]
カテゴリ

再読。現実とへその尾で繋がれているのが夢ならば、これは夢の現実として切断されている。そして「ゆ」と「め」の縫合。湯に浸かったり湯を求めたり、メメクラゲに刺され目医者ばっかりだ!比喩して治癒して致命傷になる目眩して湯治する。抒情・情緒・叙事・叙述、その他。滲むことないインクの湯に溺れたなら、そこは夢見たぼくらの居場所。…いい湯だな、…いい夢だな。

『長八の宿』で下男がご飯を食べる3コマがあるのだけれど、このシーンの速度が好きで、ふふふと声を出して笑いたくなるほど面白いのに誰からも賛同されたことがない。かなしみ。

2020年1月18日

読書状況 読み終わった [2020年1月18日]
カテゴリ 日本

クリスマスにゴーストストーリーを聞かせる風習は素敵だと思う。
でも、クリスマスなんてぶっ壊しに来たんだよって勢いの残酷でシビアな現実が書かれている。クリスマスの光景をあっという間に凍てつく荒野へと変貌させ、蝋燭のように幽かに灯った希望さえ打ち砕く。それは怖さともまた違う寒々とした味わいで。
寂しい古い顔をした過去について描いた絵画みたいで差しのべる指の先から溶けて、故人だけがくっきりと微笑んでいる、それは最早、思い出ではないのだ。
絶望的な孤独は寂寥とした殺風景を心の内に潜ませて静かに密かに風景を殺してゆく。

2019年12月6日

読書状況 読み終わった [2019年12月6日]
カテゴリ 日本

再読。登録表記は『白体』となっているけれど、正しくは『白體』。
何をもってしても言葉の端々にすら触れられない凄みがある。なのに、蝶が羽ばたくみたいにとても軽々とあざやか。言葉にも硬さや重さだけではなく、遠さや高さ、そして速さがあることを知る。とおい渚で磨かれた真っ白な骨。それを覆うのは魂や血、肉だったりする。その全てに言葉は混入されていて骨身に染みる。直接、骨に句は書かれているのだろう。焼かれた骨の中からも見つかり、わたしにもこんな句が刻まれていたのだと驚くような美しさがある。白く豊かなる骨を幻視して。

2019年11月29日

読書状況 読み終わった [2019年11月29日]
カテゴリ 俳句

たましいを髪のようにたばねて梳かすと後ろ髪を引かれるように湿り気のある夜に溶けて、闇へと深く融ける。闇は現実を濾過して非現実に日常を異化して非日常の貌へと変えてしまう。帰る場所も返る言葉も見失い、現在は不透明で存在は半透明である。小指から流れた赤い糸は脈打った動脈で静かに彼岸へとつながっており、薬指は雫としたたり落ち夢へと波紋を拡げ視界を支配し異界と婚姻する。すべての名を空欄にして顔を空白に変えた物語は頁を捲り、字を巡り具流具流と読み手を翻弄する。冷ややかに熱を帯びながら目の奥から体温が奪われる液体感覚。

2019年11月22日

読書状況 読み終わった [2019年11月22日]
カテゴリ 日本

箱から箱へと旅をする。掌に収まるスコープの中に納められた繊細で緻密な光景を舐めまわすように見た。手に入れてしまった日には、私は朝から晩まで片時もこの眩惑の箱から離れないに違いない。見てはいけないものを盗み見ているような背徳的な笑みをもって覗き続ける。そして「まだ大丈夫だ」と思う。片目が現実に繋がっている限り、私は決して箱の住人になることはできない。

マグリットの〈リスニング・ルーム〉を彷彿とさせる〈天使卵〉がお気に入り。部屋の中の卵はほんの少し傾いている。卵の中の天使に顔がないのはきっと堕天使だからだ。
《2014.08.01》

2019年11月15日

読書状況 読み終わった [2019年11月15日]
カテゴリ 芸術
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執行猶予である生の、そして幸福の返却期限はとうに切れ、延滞料金がかさんで行くように孤独と死の影だけが膨れ上がっていく。言葉も身体も重ねるほどに軽くなる生の実感。個と個が出会っても孤と孤は擦り合わない。喪失と周りの世界。喪失と再生ではなく圧倒的な喪失の物語。再生されるのは過去であり、これから再びの“生”ではない。記憶はどこまでも幻影みたいに追って来て見つめ続ける。孤独や死との付き合い方は見つめられても見つめ返さず、かと言って見捨てないことだと思うのだが、彼は視線を読み間違う。
そのときの明日、そしてその余白。

2019年11月2日

読書状況 読み終わった [2019年11月2日]
カテゴリ フランス
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