アラブとイスラエル パレスチナ問題の構図 (講談社現代新書)

著者 :
  • 講談社 (1992年1月16日発売)
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感想 : 45
5

『アラブとイスラエルは仲が悪い』程度の知識しかなかった自分が、一瞬でのめり込んでしまう一冊がここにあった。

そもそものイスラエルとユダヤ人の関係を辿ればそれこそ紀元前までたどらなけらばならないが、本書ではその始まりを19世紀末、ユダヤ人が各地での迫害から逃れるための新しい土地を必要としたシオニズム運動から始まる。

いくら聖地とはいえ、古くから別の宗教の人達が治めている土地への入植など進むはずもなかったが、歴史にはいつも悪役として登場するイギリスがイスラエルを認めたことから様相が変わってくる。

ユダヤ人の資本力による土地の買収とナチズムからの逃避により入植は加速し、大戦の最中に獲得した軍事力によってイギリスをも追い出すことに成功したイスラエルは、多くの敵ををつくりつつ、かつそれを打ち倒し、独立を果たす。
これこそが、始まりの戦争、第一次中東戦争であった。

建国を果たしたイスラエルはしかし、北のレバノン、北東のシリア、東のヨルダン、南のエジプトという敵に囲まれ、冷戦下のソ連とアメリカを巻き込み、予算の大半を防衛費に注ぎ込んだ戦闘国家として次の大戦への準備を進めるしかなかった…。

本書の語りはここから第四次中東戦争まで詳細に語られるが、初版は1991年であり、物語は湾岸戦争の終結とともに唐突に終わる。

そう。これは物語だ。キッシンジャーやナセル、ベギンらの想いが捏造して語られることはないものの、各陣営の思惑や狙いがわかりやすくカリカチュアライズされており、例えばシオニズムとナチズムを同一線上に並べることには強い反感を覚える人もいるだろう。

だがしかし、どんなに優れた歴史家であったとしても、全ての真実を書ききることは決して出来ない。歴史には登場人物の数だけ、いや、全人類の数だけ真実があり、その全員が納得できるような物語など存在し得ない。

そのことさえ理解してる人であれば、本書は興味の入り口として、中東問題に無関心でいられなくなる教材として、これ以上のものはない。

本書によって、アラブは『アラブ』ではなく、PLOとPLFとパレスチナとエジプトとシリアとヨルダンとレバノンとイラクとイランとクウェートと産油国に分解され、
イスラエルは『イスラエル』でなく、セファルディムとアシュケナジムと在米ユダヤ人とソ連移民に分解される。

この一歩が、例え一面からしかとらえていない見方であったとしても、無関心をやめ、関わるための一歩となることは間違いない。

1991以降の中東の物語を、現実を、知られずにはいられなくなる一冊。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2016年10月22日
読了日 : 2016年10月22日
本棚登録日 : 2016年10月22日

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