将来、AIが個人の最適な職業を提案することが可能になったとして、それはどの段階で可能となるだろうか?
成人してから?赤ん坊の頃?それとも受精卵すら発生する前の両親の遺伝子を判定して?
原題は「Nature Via Nurture:Genes,Experience and What Makes Us Human」であり、若干の意訳がすぎるところがあるが、いつの時代でも両親の心配事となる「生まれか育ちか」論争に答えを出す一冊だ。
今の時代、親でなくとも子育てには環境と遺伝子の両方が影響していることに疑いを持つ人は少ないだろう。
特別な英才教育の環境を用意されたとしても、真剣に取り組む子もいれば、遊び回って手がつけられない子もいる。それは兄弟姉妹であったとしても同じことだ。
この性格の違いは、生まれによるどうしようもないものなのか、これからの環境次第で変えられるものなのか。
本書は「生まれと育ちの両方とも重要」ということを改めて語るものではなく、「遺伝子は環境を通して発現する」ことを説明する。
例えば、鳥類の刷り込み。
「最初に見たものについていく」という遺伝子なしには有り得ないし、それが親鳥であるかどうかは環境次第。
ヘビを知らないサルの子供に、ヘビを怖がる母猿の映像を見せると、ヘビを怖がるようになるが、花を怖がる母猿の映像を見せても、花を怖がるように教育することはできない。
もちろん、本書で取り上げられるのは動物の事例だけではない。
不幸にも幼少期に言語を学ぶ機会を奪われた子供は、成長後の如何なる教育によっても喋れるようにはならない。
被虐待児は、あるタイプの遺伝子をもっている場合のみ反社会的な行動を示すように育つ。
子供が犯罪を犯す確率は、実父母と養父母の両方が犯罪者であるときに一層高まる。
養父母が離婚したときよりも、実父母が離婚したほうが子の離婚の確率は高まる。
つまるところ、遺伝子とは、環境から情報を引き出す書庫であり、レシピであり、スイッチである。
意志や教育や文化の力を総動員したとしても、遺伝子情報を変えることはできないが、その特性は適した環境がなければ発現しない。
さらに付け加えるならば、遺伝子と環境の条件が揃ったとしても、最終的には"確率"の問題となる。
遺伝子と確率がどうにもできないものならば、適した環境を探し続けるしか、出来ることはないだろう。
- 感想投稿日 : 2021年12月31日
- 読了日 : 2021年12月31日
- 本棚登録日 : 2021年12月31日
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