主人公・ケイコの世界には音がないはずなのに、見終わった後、妙に音に敏感になっているのが不思議だ。
私が昔からボクシング映画に惹かれるのは、ボクシングという競技に深い孤独性を感じるからかもしれない、と思うことがあるが、
そこに聾という要素が加わったとき、その孤独さは私には推しはかりがたいほどであるように感じる。
「話したって人はひとりでしょ?」とケイコは言った。
荒川に対峙するケイコの、刺すような眼差し。
人が少なくなったジムのパイプ椅子に座る会長の、哀愁漂う背中。
言わずして多くを語る演技の凄みを見た。
言わなくたってわかるやつにはわかるし、わからないやつにはわからない。
虚飾も説明的演出もない、ストレートだけれど人間模様の深淵に迫る、良質な映画である。
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- 感想投稿日 : 2023年8月29日
- 読了日 : 2023年8月28日
- 本棚登録日 : 2023年8月28日
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