私が鳥のときは

  • 河出書房新社 (2023年12月1日発売)
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感想 : 39
4

 平戸萌さん。本作以前に別名義によるすばる文学賞最終候補歴? でも本書がデビュー作で、変な(?)日本語・英語タイトルの2編が収録されています。
 中学生女子の、諸々の事情や家族の垣根を超えた、ひと夏の絆の物語です。万人におすすめしたいと感じましたが、特に、中・高生の女の子、親御さんに読んでほしいと思いました。

◯『私が鳥のときは』
 (氷室冴子青春文学賞大賞受賞作)
 読み始めこそ、思春期中学生女子特有のイライラなど、その接し方の難しさから共感しにくい印象でしたが、(少々無理ある設定もあり)物語は思いがけない方向へ展開していきます。
 いじめ、虐待、不登校、余命宣告などの背景が徐々に明かされつつ、世代も境遇も異なる女性4人が、不足部分を補い合いながら共生していくのでした。
 どんなにマンネリで惰性的な家族でも、異質な人が加わることで波紋が広がります。どうしても変化が起こりますが、寛容と受容をもてたら、新しい可能性が開けるような気がしました。
 そういう意味で主人公・蒼子の家は、まるで、問題を抱えた人たちのシェルターのようです。
 蒼子も、最初の印象を覆し、実にいい子でしたし、瑞々しい筆致でとても爽やかな読後感でした。ただ、父親たちはまるで登場せず、その存在感・責任ゼロなのはあり得ないし、残念‥。

◯『アイムアハッピー・フォーエバー』(書き下ろし)
 蒼子の母の元同僚で、余命わずかの「バナミさん」が中学生だった頃の物語です。表題作を読んだ直後なので、バナミさんのどんな過酷な過去が明かされるのかと思ったのですが、思いの外普通に青春していて、逆にホッとし救われた気がします。
 しかしながら、幼稚園時代に両親を事故で亡くし、マナミという本当の名を封印して、健気に頑張ってきたのでした。人は、いろんな事情を抱えていても、誰かへの憧れが今の自分を形作っている、ということはあるのでしょう。
 配慮という名の勝手な傲慢さで接するよりも、全くフラットな状態で関わる方が、対等な関係が築けそうです。難しいでしょうが‥。

 この2編の、2人の中学生時代の物語は、いつの時代にも共通するように、眩しくも脆く、ほろ苦いものでした。それでもこの爽やかさは、鬱屈した日々にも、何か小さな奇跡を運んでくれるかもしれない、と錯覚させてくれる心地よさでした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2024年8月21日
読了日 : 2024年8月21日
本棚登録日 : 2024年8月21日

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