高校関係者向けに、道具主義的考え方に基づいて、法を社会目的を達成する手段と説明する。立法論における醍醐味を、最善の策(ファースト・ベスト)ではなく複数の次善の策(セカンド・ベスト)のうち、どれが最もましか折り合いをつけながら決めることにあるとし、社会のルールの設定=インセンティブ付与の際には、達成目的・利害関係人の行為予測の重要性につき面白い具体例を挙げて説得する本書は、解釈学よりも立法論への魅力が光る。社会的ルールには法以外にもお金やフリマアプリによる評価などがあるとして円滑な契約ができる要因分析も興味深い。
法学研究を、独自のディシプリンを持たない特徴があるとして、他の科学の成果を利用する、それ自体は非科学的なものとの説明もあり、この点、研究者により捉え方は変わると思うが、高校生が進路を選ぶ上では有益な指摘であると思う。高校生向けに書かれた本書は、ややもすると法学部進学=法曹を目指すと思われがちな中で(特に昨今の法学部・法科大学院5年一貫制度など)、法学というものが解釈論や法適用のみならず立法論や社会にあるルールを見直す視点を学ぶ点も見落とされてはならないことを理解できる本書は、貴重。
近年問題視されている、ブラック校則がなぜ生まれてくるのか、ブラック校則が不合理なルールなのか、あるいは校則をいかに作っていけばいいのかについても具体的な説明があり、ブラック校則について関心がある人にもおすすめ。本書の見解が法学の全てを説明しているわけではないということを前提に、法学について知りたい人や既存の法律との向き合い方に悩む人にもおすすめしたい。法分野横断的に法というルールを客観的・俯瞰的に見ていく姿勢は、筆者が社会科学やデータサイエンスを方法論として法を分析する研究をしているからだろう。
法学研究でも客観法分析や法と経済学による研究が盛んになってきており、法の分析手法の多様化は望ましい社会作りに有益だ。その反面、思わぬ弊害を生まないためにも、これまで主流であった権利論や主観法の分析がどのような意味と機能を持っているのかを前者の議論の俎上に載せるために積極的に論証しなければいけないとも思う。
- 感想投稿日 : 2021年5月31日
- 読了日 : 2021年5月31日
- 本棚登録日 : 2021年5月31日
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