ひろしま

  • 集英社 (2008年4月25日発売)
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本棚登録 : 169
感想 : 25
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梯久美子『昭和二十年夏 女たちの戦争』で知った写真集。
実際にその写真集を開いてみれば、息が止まりそうだ。
知っていたけれど、その写真の愛らしさと、むごたらしさと。
涙が止まらない。

あの日、誰かが身に着けていた衣類、
今は広島平和祈念資料館に眠っている。
そのワンピースを、ブラウスを、あるいはメガネを、石内都は撮った。
何のキャプションもつけず、写真集はできた。

それなのに、はっきり見えるように感じられる。
母の手作りのワンピースを身に着ける幼子、
お洒落な腕時計の持ち主は仕事のできる才色兼備の人。
レースのついたスリップは、恋に胸ときめかすお嬢さん……

巻末に「被爆資料リスト」として
品名と寄贈者の氏名が記されている。
被爆のせいばかりでなく、品名を見なければ、
時代のギャップで、それが何かわからないものもあった。

梯氏は前掲書で書いている。
「史料として見る前に、女性たちが大切に来た服として見る視点が
この写真集にはある」と。
その服本来の美しさが蘇ったからこそ、着ていた人たちの日常、
死の瞬間まで大切にされていた日々の暮らしの中での美しいものへの
想いがそこに立ち上る……

異常な戦時下にあって、なお日常の営みが行われること。
田辺聖子も向田邦子も、あの時代に青春を過ごした作家は
皆、明るい学園生活をも書いている。

それだからこそ、怖いのだ。
昨日、一緒に笑い転げた仲良しの同級生が、
今日、冷たい亡骸となっていることが。
健康で、何のさわりもなく日常を送れる人が、
突然命の営みを止められてしまうこと。

その恐怖が不条理が、ひしひしと感じられる。
いまだに涙が止まらない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: その他
感想投稿日 : 2011年9月2日
読了日 : 2011年9月2日
本棚登録日 : 2011年9月2日

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