「ほんもの」という倫理―近代とその不安

  • 産業図書 (2004年2月20日発売)
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近代は、前近代の「脱魔術化」から始まる。神や超越的存在を否定した近代から、個人主義が始まる。同時に、魔術が排除された近代では、テクノロジー、官僚制、非人格的メカニズムが発達する。あらゆることを計量し、最大化、効率化をめざす道具的理性が、人間の人格性を否定する。個人は、テクノロジーの発達した社会において、自分の中にひきこもるようになり、共通の事柄について対話することが少なくなった。近代の個人は、政治的自由を喪失した。

テイラーは以上の形で近代の問題点を指摘した後、現代文化を否定するのでもなく、是認するのでもなく、現代文化がその始まりに持っていた理想に従って、現代文化を立て直そうと提言する。

近代的な自己は、ルソーやヘルダーが指摘したように、自己意識の肯定、発見から始まる。近代社会では、自己決定、自己選択の自由が称賛されるが、テイラーは、選択行為そのものに価値をおくこと、また、全ての選択肢に価値があるとする相対主義的発想を批判する。

個人が自由に選択するのは何故かと言えば、様々な事象に価値の大小差異があるためである。近代的な個人主義、個人の自由な選択を肯定する思想を否定するのでなく突き詰めてみよう。諸個人は、「よりよい生き方を自分で選びとることができる」という価値が再発見されるだろう。

自分の選択、決定に責任を引き受けつつ、率先して、最高の道徳的価値を選びとろうと生きていくこと。これがテイラーの奨励する生き方となる。道徳的価値は、個人により発見されるが、選び取ったそれが価値あるものかどうかは、一人の決定によるのでなく、他者との対話、承認によって生じる。

多元的な個人の価値を肯定しつつ、全てのものに等しく意味があるというのでもなく、共同体を一方的に賛美するのでもなく、別の方策、いや、本来的なドイツロマン主義が目指していた<ほんもの>という倫理を思考すること。テイラー思想入門に最高の良書だった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 現代思想
感想投稿日 : 2013年4月29日
読了日 : -
本棚登録日 : 2013年4月29日

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