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顔も声も自分と瓜二つ。人間性は最低。この出会いは、何をもたらすのか。船橋から東京に戻る総武線快速。本田理司は、併走していた各駅停車の車窓に、自分と同じ顔をした男を見つける。血縁ではなく、服装も髪型も違うのに、まるで鏡を見ているようだった。やがて、二人は偶然再会し、その夜を契機として、世にも不条理な逃走劇が幕を開ける―。
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自分と瓜二つの人物に出会った途端、平凡な日常のあちこちにひずみが出始める。そしてとうとう婦女暴行容疑で警察に追われることになる。本田理司は、あの自分とそっくりな男にはめられたと察したが、警察がそれを信じるとは思えずに、逃げ続ける。その過酷さは、身に覚えのない罪で負われる理不尽さゆえに、いや増し、読みながらうんざりもするのであるが、幸運に恵まれ、不運にも苛まれて、なんとかラストにもつれ込むのである。両親が亡くなったときに世話になった叔父夫妻への感謝や、兄や会社の後輩・朴さんへの信頼があったからこそ生き延びられたとも言える気がする。自分から逃げ、自分を追いつめるようで、厭な気分ではあるが、愉しめる一冊だった。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
な行の作家
- 感想投稿日 : 2016年5月18日
- 読了日 : 2016年5月18日
- 本棚登録日 : 2016年5月18日
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