(多分高校の授業でやったはずの)酸化と還元の定義から始まり、自然の植物が行なっている光合成の仕組みから、人工光合成の起点となる光触媒の理論まで、端折ることなく丁寧に解説されている。
面白いのは人工光合成で得られる、燃焼させても水しか発生させない理想のエネルギー源であるはずの水素が、単純に化石燃料の代替物とは見られていないこと。すでに化石燃料が普及した現代では、水素利用のためのインフラ再投資に莫大な費用がかかるため、まずはエチレンやプロピレンなどの化学原料の生成に利用するのが現実的だという。考えてみればエネルギー源はあらゆる産業のプラットフォームなので安ければ安いほど良く、エネルギー供給それ自体をビジネスにした場合採算が取れないのは当たり前だ。かてて加えて、人工光合成の太陽エネルギーからの変換効率は未だ数%。ゼロコスト社会の到来をややユーフォリックに予言する本が売れているが、科学技術の進歩がいくら急だとはいえ、現実にはフリーエネルギー社会が実現するのはかなり先のことになりそうだ。
本書を読んで勇気付けられるのは、この分野での日本の基礎・技術研究の貢献の度合いが相当に高いということ。是非このままの位置をキープしてもらいたいと思う。
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- 感想投稿日 : 2016年10月9日
- 読了日 : 2016年9月24日
- 本棚登録日 : 2016年9月11日
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