小説仕立てではあるが、著者は当時新聞社の編集委員で、登場人物たちもすべて実名であるというから、脚色されたノンフィクション、といった趣か。
派手な演出や凝った技巧などはまったく見られないが、それ故に素朴な事実の記録に近いものとして感じられる。
タイトルにもある"黒部"の名がついた黒部ダムが一般的には有名だが、本書で描かれているのはダムそのものの建設ではなく、それに先立つトンネル掘削工事の顛末。
今の時代に読むと、私などは「かけがえのない自然に挑み、それを歪めてまでしてこのようなものを造らなくても…」と思ってしまうが、黒部ダムと黒部川第四発電所の建設が計画された当時にとっては、これこそが誰も疑義を挟まない、唯一絶対の解だったのだろう、という想像はつく。
日本全体が戦後の復興に取り組み、それを高度経済成長という形をとって実現しつつあった最中。
そういった背景の中、文字通り命を賭して黒部峡谷の秘境にあれだけの巨大施設を造り上げてしまった人間の力の大きさというものは、心からの賞賛に値すると思う。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
文庫
- 感想投稿日 : 2016年10月11日
- 読了日 : 2016年10月11日
- 本棚登録日 : 2016年10月11日
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