豆腐屋の四季 ある青春の記録 (講談社文芸文庫)

著者 :
  • 講談社 (2009年10月9日発売)
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本棚登録 : 156
感想 : 14
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なるほど非常に素朴で流麗な言葉を連ねて、非常に美しい精神世界を活写してゆく、稀なる小説。

もはや同じ日本のことについて書かれたのだということを鑑賞するには、超絶的にかけ離れてしまった現在と当時(昭和43年)。だがおそらく通じる、この小説は。

漫画のようと書くと語彙力のなさを痛感するが、漫画的な貧窮、いまとなっては想像しえない幼な妻の献身、もどかしさこの上ない「手紙」「新聞投稿」というコミュニケーション手段など、これら絶滅文化は、何か人間を鍛錬する装置でもあったのか。
いや、そうではなく、この「豆腐屋の四季」の精神世界は昭和43年の日本においてもアナクロいものであり、センセーショナルだったのである。
突き抜け方が尋常ではない。

自費出版の翌年には、大手出版社からの刊行のみならずTVドラマ化されるというサクセスストーリーなのであるが、本作が放つ異様な吸引力を思えば、さもありなん。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 日本の長編小説
感想投稿日 : 2021年3月21日
読了日 : 2021年3月21日
本棚登録日 : 2021年3月12日

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