予告された殺人の記録 (新潮文庫)

  • 新潮社 (1997年11月28日発売)
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殺意を持った人物(たち)が、殺さずにいられないほど相手を憎悪しつつ、
根っからの悪人ではないので、出来れば周囲に阻止してほしくて、
「今、殺(や)りに行きます」(笑)と吹聴するのだが、
本気にしない人が多いわ、一部「これはイカン!」と思った人の声は
ターゲットに届かないわで起きてしまった凄惨な殺人事件の回想。

27年後の追想録になっているのは、
作者が故郷で実際に起きた事件をベースに
ノンフィクション小説を書こうと思い立ち、
実現させるまでに長い時間を要したことが反映されたため、らしい。

加害者にせよ、傍観者にせよ、長期間を経過すると、
実行した、現場に立ち会ったという記憶が薄れ、
事件は他人事として褪色してしまうのではないか……
と、常日頃思っているのだが、この物語の登場人物たちも、やはり、
往時の状況を微に入り細を穿って語りはするが、
誰が悪いとか自分にも落ち度があった、といった他責・自責の念が希薄になり、
生涯ただ一度の豪勢な祭の熱狂を懐かしむような口振りなのが
いかにもラテン系だな、と思わされる。
被害者は神への捧げもので、皆が協力して仔羊を屠ったということなのか。
しかし、それによって共同体の絆が強まりはせず、
時代や社会構造の変化に揉まれて、紐帯は次第に解けていったのだろう。
だとしたら、遺体は虚無への供物になったとしか言いようがない。

面白いのは、後半に
緊張の中の弛緩と言うべきナンセンスさが滲み出てくるところ。
検死解剖によって
被害者の胃から幼少期に呑み込んだメダルが出てくる(p.89)だとか、
急性アルコール中毒で倒れた花婿の惨めで滑稽な様子(p.99,103)などの叙述に、
笑みが零れてしまった。

(p.141)
「人をひとり殺すのがどんなに難しいか、お前さんにゃ想像もつくまいね」
――ですが、噎せ返るような汗と埃と血と臓物の臭いは
嫌と言うほど伝わってきました、ハイ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ:  ラテンアメリカ文学
感想投稿日 : 2017年9月7日
読了日 : 2017年9月6日
本棚登録日 : 2017年8月24日

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