一度きりの大泉の話

  • 河出書房新社 (2021年4月22日発売)
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感想 : 137
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日本少女漫画界の大巨星・萩尾望都御大の自叙伝が出ると聞いて、
喜び勇んで予約したものの、
発売を待つ間に何やら不穏な気配を感じた。
読み始めてじきに、嫌な予感が的中したのを察した。
新人時代の慌ただしくも楽しかった青春の日々――
といった話ではなく
(もちろん愉快なエピソードも回顧されてはいるが)、
反芻すればするほど苦くて辛い出来事の記録なのだった。

これから読もうとする人のために、細かい点には触れないが、
オモー様の価値観、物事の捉え方・考え方、また、
それらに基づく反応の仕方に強く共感した。
例えば p.265、

> 私は何か言われて、不快でも反論せずに
> 黙ってしまう癖があります。
> それは不快という感情と共に、強い怒りが伴うので、
> 自分で自分の感情のコントロールが
> できなくなってしまうのです。
> 感情は熱を持ち、一気に暴走列車のようになり、
> 自分で持て余してしまいます。
> この感情はきっと大事故を起こす。
> 怖くなって、押さえ込み、黙ってしまう方を取ります。
> 冷静に反論する練習をすればいいのでしょうが、
> なかなかうまくいきません。

ああ、わかるなぁ。

芸術家と呼ばれる人たちの中に、
多弁・能弁でセルフブランディングが得意な人物と、
不得手な人物がいるとすれば、
私は後者に好感を抱くし、応援したいと思う次第。

それから、本書を通読して、
何故自分が(自慢できるほどちゃんとした読者ではないけれども)
萩尾作品が好きなのか、理由の一部を再確認した。
勝者の物語にほとんど興味がなく、
悩める人々が自らの苦悩とある程度折り合いをつけながらも、
やはり悩み続けて生きていくストーリーに
共鳴するからなのだ――と。

未読の初期作品にもアタックしようかな。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ:  エッセイ・日記・自伝
感想投稿日 : 2021年4月24日
読了日 : 2021年4月24日
本棚登録日 : 2021年3月15日

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