うつろ舟―渋澤龍彦コレクション 河出文庫 (河出文庫 し 1-41 澁澤龍彦コレクション)
- 河出書房新社 (2002年9月1日発売)
Tasso再読祭継続。
『ねむり姫』同様、様々な典籍に材を取った幻想時代劇、
全8編。
『ねむり姫』が「陽」なら、こちらは「陰」。
凄惨な怪談の気配が濃厚だが、表題作は
キーワードの「多幸感」が示すとおり、妙に朗らか。
以下、特に印象深い作品について。
■「魚鱗記」
江戸時代の長崎で流行したという「ヘシスペル」なる
水槽の魚を使った賭け事、
それにまつわる悲劇、そして怪異。
ラストは小泉八雲の怪談のように、しんみりと物悲しいが、
事件の鍵を握る不気味な少年の素性は謎のまま。
■「花妖記」
鞆の浦に着いた商人が出会った、
地元の分限者の次男坊は、昼から飲んだくれ、
奇妙な話を始めた……。
エロティックと見せかけて、おぞましい怪談。
夢野久作の短編をエレガントにしたような。
■「菊燈台」
土佐の伝説「宇賀の長者」、
延いてはそれを翻案した田中貢太郎「宇賀の長者物語」を
ベースにした奇談。
人魚と契り、記憶を失って人買いに攫われ、
製塩所の苦役に就く美青年は……。
水の精、また、火の精の死の抱擁。
■「ダイダロス」
タイトルはギリシア神話に登場する発明家で、
イカロスの父。
宋から日本へ渡り、
源実朝のために巨船を建造した陳和卿だったが、
船はあまりに大きく重すぎて進水すらままならず、
浜辺で朽ちていった。
面目を失った陳は隠れ家に蟄居し、
人語を解す鸚鵡と語らいながら酒に浸っていたが……。
幾重にも折り重なった人の夢を切り裂いて海に還った
一匹の蟹もまた、何ものかの夢の中に棲む、
堅い甲羅よりむしろ儚い泡に近い存在だったのかもしれない。
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- 感想投稿日 : 2017年11月30日
- 読了日 : 2017年11月30日
- 本棚登録日 : 2017年11月24日
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