白水uブックス版(多田智満子=訳)を
学生時代から何度か読んでいるが、新訳にも手を出してみた。
ローマ帝国第23代皇帝
マルクス・アウレリウス・アントニヌス・アウグストゥスこと
幼名ウァリウス・アウィトゥス・バッシアヌス、
セウェルス朝第三代当主でもあった通称ヘリオガバルス
もしくはエラガバルスの評伝――というには迂遠な、
著者アントナン・アルトーによる幻視的エッセイ色の濃い創作。
アルトーは無秩序で退廃的な、
ローマ史上最悪とも評される少年皇帝に、
狂気と紙一重の状態に置かれた自分自身を重ね合わせていたらしい。
第一章 精液の揺り籠
ヘリオガバルスの誕生に繋がる、一族の物語。
政権を奪還するため、あらゆる手段を駆使した女たちの
画策によって産み落とされ、
神官として育てられた男児の背景。
204年にアンティオキアで生まれたウァリウスは、
幼年のうちに太陽を祀る司祭に据えられ、
太陽神ヘリオガバルスを名乗って神との同一化を目論んだ。
アルトーは、そんな彼が採用した一神教の正当化を
アナーキーと呼んだ。
第二章 諸原理の戦争
バッシアヌス一族が祀った太陽神の宗教について。
男児として生まれながら
女になりたいと願ったヘリオガバルスは、
相反するものを、苦痛を味わって自身の内で一致させたが、
男性的なものと女性的なものの間に抽象的な闘争を
生じさせた。
アルトーは、ヘリオガバルスの生涯を、
そうした原理の解離の類型であると考えた。
第三章 アナーキー
息子を献身的に支えた母ユリア・ソエミアと、
彼女の権力への執着に裏打ちされた愛情に
報いようとしたヘリオガバルスだったが、
内面は混乱し、行動は倒錯的だった。
玉座に就き、専制政治を敷いて、
どんな法も受け入れない支配者となった彼は
アナーキストだった――と、アルトーは述べる。
ヘリオガバルスに蹴散らされたローマ人たちにとって、
彼の治世は無政府状態だったが、彼にしてみれば、
それは一族が奉ずる宗教の復権であり、均衡の回復だった。
しかし、自身の息子アレクサンデルを王位に就けようとした
叔母ユリア・マンマエアの陰謀によって、221年、
ヘリオガバルスと母ユリア・ソエミアは無残な死を遂げた。
【余談】
白水uブックス版
https://booklog.jp/item/1/4560070806
表紙画像が誤っています。
Amazonとブクログの連携ミスらしいのですが、
2018/01/25、
ブクログから修正不能との返答。
読書SNSの運営に本好き・愛書家は存在しないのかと
頭を抱えた次第。
【余談付記 2021/02/05】
白水uブックス版
https://booklog.jp/item/1/4560070806
表紙画像がいつの間にか正しい状態になっていました。
但し、修正完了のお知らせはいただいていません。
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- 感想投稿日 : 2019年1月24日
- 読了日 : 2019年1月23日
- 本棚登録日 : 2019年1月13日
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