ラピスラズリ (ちくま文庫 や 43-1)

著者 :
  • 筑摩書房 (2012年1月10日発売)
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本棚登録 : 1620
感想 : 112
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格別敬遠していたわけではないが、
この年になってやっと山尾悠子を読む気になった。
が、遅すぎはしなかった――というより、
人それぞれ、物事には適切なタイミングがあって、
自分にもやっと、そのときが巡ってきたのだと思った。

冒頭の語り手が深夜営業の画廊で銅版画の連作を目にし、
イメージを膨らませていると、店主がそれらの絵解きをする。
後の物語で、
その銅版画のモチーフになったと思しい事件が叙述されるが、
それらの物語が連続・連結しているとは限らない。
ただ、某かの関連を持つことは窺えて、
連屏風を眺めるような印象を受ける。
もしくは物語同士が少し遠い血縁でもあるかのような。

広大な屋敷には、
冬眠する貴族と、彼らを世話する使用人たちの他に、
亡くなって幽霊となった
「ゴースト」と呼ばれる者が徘徊している。
建物内の人間に招かれなければ入室できないというゴーストは、
ひょっとして吸血鬼なのかと、チラと思ったが、
読み進めると、
長い眠りを貪って若さと美しさを維持する住人たちの方が
よほど吸血鬼じみていると思えてくる。
使用人たちが季節ごとのルーティン・ワークをこなして
屋敷の秩序を維持する様は、
まさに「種まきと刈り入れのメタファー」【※】であり
「新年を迎えるための通過(パッサージュ)」【※】
なのではあるまいか。

【※】高山宏『殺す・集める・読む』
  「テクストの勝利~吸血鬼ドラキュラの世紀末」より引用。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ:  女流文学
感想投稿日 : 2012年2月27日
読了日 : 2012年2月26日
本棚登録日 : 2012年2月27日

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