■このレビューは本人の宣伝でございます■

この度、オリジナル中編小説2編を収録した
自費出版本を刊行しました。
http://www.amazon.co.jp/dp/486476381X

2015年にネットで公開した「フラゴナールの娘」修正版に
書き下ろしの姉妹編を合わせた1冊。
実際の商品にはカバーに「帯」が付いています。

委託販売がございます。
■架空ストア 様:商品ページ
 https://store.retro-biz.com/i13408.html

■書肆鯖様 (通販)
 http://subbacultcha.shop-pro.jp/

電子書籍版のご案内はこちらです。
http://booklog.jp/users/fukagawanatsumi/archives/1/B01CNSJUES

表題作のお試し読みはこちらでどうぞ。
https://fukagawanatsumi.wixsite.com/antiparadis/novels-pdf
https://romancer.voyager.co.jp/?p=117357&post_type=rmcposts

尚、このレビューページは随時更新される可能性があります。

2016年1月18日

■このレビューは本人の宣伝でございます■

オリジナル中編小説2編を収録した自費出版本
『フラゴナールの娘』
http://booklog.jp/item/1/486476381X
の、電子書籍版がリリースされました。

□Amazon_Kindle
 http://www.amazon.co.jp/dp/B01CNSJUES
□楽天kobo
 http://books.rakuten.co.jp/rk/29eb5ea32a2b3fefa325092dc3012e44/
□Reader Store
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□COCORO BOOKS
 http://galapagosstore.com/web/book/detail/sstb-B511-1511024-BT000036426000100101900209
□紀伊国屋書店kinoppy
 https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-08-EK-0314516
□BookLive
 http://booklive.jp/product/index/title_id/364260/vol_no/001
□ブックパス
 https://www.bookpass.auone.jp/pack/detail/?iid=BT000036426000100101&skip_flag=true
□omni7
 http://7net.omni7.jp/detail/5110302263
□ひかりTVブック
 http://book.hikaritv.net/book/content/book-store/9000423517/
□dブック
 http://book.dmkt-sp.jp/book/detail/book_type/011/title_id/0000190191/
□BOOK☆WALKER
 https://bookwalker.jp/dee96a3aab-daf4-47f4-8140-c81b024f0915/

内容は紙の本と同じで、
「フラゴナールの娘」+姉妹編1編です。
表題作の無料のお試し読みはこちらでどうぞ。
https://romancer.voyager.co.jp/?p=117357&post_type=rmcposts

尚、このレビューページは随時更新される可能性があります。

2016年3月8日

200X年。
退屈で憂鬱な日常の壁に空いた穴に
指を差し込んで押し広げてみたい、
そんな衝動に駆られた少年は、
かつて姉を惨殺されたフリーライターと共に、
吸血鬼さながらの殺人者を追う――。



森口祐樹は家庭の事情で伯母一家と共に
裕福だが窮屈な暮らしを送っていた。
吸血鬼にまつわる伝承に固執し、
いくつかの未解決殺人事件に強いこだわりを持つ
フリーライター月島朔也と知り合った祐樹は、彼と共に
ヴァンパイアを思わせる美貌の殺人犯を追うことに……。



タイトルはブラッドオレンジの意。
吸血鬼というモチーフを
サスペンス×ミステリの枠に落とし込んだ
メタフィクショナルな長編小説。
恋と友情と恐怖と師弟愛の物語。



旧作ではありますが、
ようやく電子書籍のリリースに漕ぎ着けました。

■kindle
 http://www.amazon.co.jp/dp/B0BK9X1CL8

■BOOK☆WALKER
 https://bookwalker.jp/de7cbe0ccb-f8c9-44e2-9817-7fc31abac007/

■403adamski
 https://403adamski.jp/p/cdbbj2egklgk4b8cu610

■BOOTH
 https://fukagawanatsumi.booth.pm/items/4352426

税込¥680均一、但し、
403adamski版のみ、あとがきの内容が詳しく、
更におまけの掌編も収録されています。
各配信元(BOOTH以外)に
無料のお試し読みファイルが用意されていますが、
Romancerでもお読みいただけます。
https://romancer.voyager.co.jp/?p=253194&post_type=nredit2

おまけのない私家版(紙の本)は、ただいま在庫切れ。

2022年10月25日

春夏秋冬、四季折々の小さくて少し不気味な物語。
タイトル calendario は
イタリア語でカレンダー(暦)のこと。
旅と食事と、ほんの少しの血の匂い……。

 *

ネットで公開中のショートショートから
季節感のある作品をピックアップした『からんどりえ』
その後。
書き下ろしを加えての電子書籍化、全16編。

■kindle
 http://www.amazon.co.jp/dp/B0B2JM7FFM

■BOOK☆WALKER
 https://bookwalker.jp/dec30b7884-e054-485d-a62b-e0bbb5bc354a/

■403adamski
 https://403adamski.jp/p/ca86rdmgklgj1lhpp3ug

■BOOTH
 https://fukagawanatsumi.booth.pm/items/4352634

配信元(BOOTH以外)に
無料のお試し読み版が用意されていますが、
Romancerでもお読みいただけます。
https://romancer.voyager.co.jp/?p=244345&post_type=nredit2

403adamski版に限り挿絵代わりの収録画像多め、また、
あとがきを兼ねた自作解説のコーナーを設けているので
お買い得です(笑)。
どうぞよろしくお願いいたします。

2022年5月27日

愛車を駆って気儘な一人旅を楽しむ
独身中年に旧友の息子から連絡が入った。
二人はしばしの間「親子ごっこ」に興じることになったが……。

名前のない男と少年と、
名付けられるのを拒む異形の神にまつわる物語。

書き下ろし中編、122ページの私家版(文庫本)。
https://store.retro-biz.com/i16983.html

2019/09/03 kindleバージョンをリリースしました。
http://www.amazon.co.jp/dp/B07XDXDCDY

2019/10/30 BOOK☆WALKERでの配信スタートです。
https://bookwalker.jp/de01ea6a3c-15c9-46c5-a541-8f40fbbbedb8/

2022/01/23 架空ストアの姉妹店403adamskiでの
配信スタートです。
https://403adamski.jp/p/c7mkanegklgjab2hq430

2022/11/28 BOOTHでも配信開始。
https://fukagawanatsumi.booth.pm/items/4354958

拙サイト及びRomancerでも
冒頭部分を無料でお読みいただけます。
https://fukagawanatsumi.wixsite.com/antiparadis/novels-pdf
https://romancer.voyager.co.jp/?p=117337&post_type=rmcposts

吸血鬼をテーマにした
長編小説『サンギーヌ』派生作品(後日談)。
主要な登場人物の一人が語り手です。

2019年9月3日

タイトルは「いっぷくせんこう」。
「一つのことを突き詰めて考えるより、
 一服して頭を切り換えた方が、いい知恵が出る」
という意味の四字熟語。

吸血鬼をモチーフにした長編小説『サンギーヌ』の
「もう一人の主人公」について綴った番外短編集。
私家版と同じ全4編収録のkindleバージョンを
リリースしました!
http://www.amazon.co.jp/dp/B07XM9CP1M

2019/10/30 BOOK☆WALKERでの配信スタートです。
https://bookwalker.jp/debdcc98ad-62bd-47e6-ba1a-2b8bf9bf4482/

2022/11/30
BOOTHと403adamskiでの配信スタートです。
https://fukagawanatsumi.booth.pm/items/4358113
https://403adamski.jp/p/ce344bugklgk4b8cu960

書き下ろし以外の3編はRomancerでも
お読みいただけます。
https://romancer.voyager.co.jp/?p=115782&post_type=rmcposts

書籍(私家版)のご案内はこちらです。
https://store.retro-biz.com/i14312.html

2019年9月17日

「恋には犠牲がつきもの」「犠牲には血がつきもの」――。

みどりは兄と、とあるマンションに腰を落ち着けたが、
その街では奇妙な傷害事件が起きていた。
また、前後して姿を現した川辺の見世物小屋とは……。

吸血鬼をテーマにした長編小説『サンギーヌ』派生作品、
主要登場人物の過去エピソード。
少し昔の都会の片隅で起きた、
奇妙な事件に巻き込まれた少女の、冷たい情熱と欲望。

書き下ろし中編、120ページの私家版(文庫本)。
https://store.retro-biz.com/i16315.html

2019/09/15 kindleバージョンをリリースしました。
http://www.amazon.co.jp/dp/B07XLWDMJS

2019/10/30 BOOK☆WALKERでの配信スタートです。
https://bookwalker.jp/def2c99eda-e47f-45ab-87d5-042e9e990f3c/

2022/01/23 架空ストアの姉妹店403adamskiでの
配信スタートです。
https://403adamski.jp/p/c7mkf4egklgjab2hq45g

2022/11/29
BOOTHでも販売開始。
https://fukagawanatsumi.booth.pm/items/4357634

拙サイト及びRomancer,くるっぷ で
冒頭部分を無料でお読みいただけます。
https://fukagawanatsumi.wixsite.com/antiparadis/novels-pdf
https://romancer.voyager.co.jp/?p=117355&post_type=rmcposts
https://crepu.net/post/617980

2019年9月15日

英国の作家ニール・ゲイマンの掌短編小説(+詩*)集。
収録作は

 翠色(エメラルド)の習作
 *妖精のリール
 十月の集まり
 *秘密の部屋
 顔なき奴隷の禁断の花嫁が、恐ろしい欲望の夜の秘密の館で
 メモリー・レーンの燧石
 閉店時間
 *森人ウードゥになる
 苦いコーヒー
 他人
 形見と宝
 よい子にはごほうびを
 ミス・フィンチ失踪事件の真相
 ストレンジ・リトル・ガールズ
 ハーレクインのヴァレンタイン
 髪(ロック)と鍵(ロック)
 スーザンの問題
 *指示
 どんな気持ちかわかる?
 おれの人生
 ヴァンパイア・タロットの十五枚の絵入りカード
 食う者、食わせる者
 疾病考案者性咽喉炎
 最後に
 ゴリアテ
 オクラホマ州タルサとケンタッキー州ルイヴルのあいだの
 どこかで、グレイハウンド・バスに置き忘れられた
 靴箱の中の、日記の数ページ
 パーティで女の子に話しかけるには
 *円盤がきた日
 サンバード
 *アラディン創造
 谷間の王者――『アメリカン・ゴッズ』後日譚

盛りだくさんだが、
こんなにときめきを覚えない読書体験も珍しい……。
ネットを見回すと概ね好意的な評価が並んでいるので
鼻白む。
相性が悪いの一語に尽きる――か。
但し、シャーロック・ホームズ・シリーズへのオマージュ
(×クトゥルフ神話!)「翠色の習作」、
中年男性が奥手だった少年時代の奇妙な体験を振り返る
「パーティで女の子に話しかけるには」は面白かった。

※細かい話は後日ブログにて。
https://fukagawa-natsumi.hatenablog.com/

2023年3月13日

古いマンガ“一人思い出し祭”を経て、
未読作が気になったので絶版につき中古品を探すという、
ワタクシあるあるの巻。
今回は ちばひさと『妖生伝説〈ラ・ヴァモント〉』
(1986年刊)。
著者に関しては検索しても
まとまったデータが出てこないので、
手持ちの書籍に記された情報を信じるしかないのだが、
1958年生まれの女性で、
アシスタントや同人誌活動などを経てメジャーデビューし、
1980年代に何冊か単行本が出ていた模様。
他にもイラストの仕事などがあった様子。
この本は短編連作集だが、各編の初出不明(記載なし)。

 妖生伝説
 聖餐
 詩神(ミューズ)のいる街
 すべてをあなたに
 聖家族
 やさしい鳥

後から出た『うさぎは眠っている』巻末の
既刊案内によれば、『林檎料理』収録短編
「花ざかりの午後」(&カラー口絵の掌編「伝説」)の
前日譚集という位置づけ、らしい。
表題の〈妖生〉は妖魔や人外くらいの意味か。
不老不死の吸血鬼(見た目は青年と中年の間くらい)
アルベール・アルトマン伯爵と、
彼が見初めた孤児フィリーを中心とする物語。
旅に出て出会いと別れを重ね、
その人たちが幸福に年老いればいいと願う……
といった結構がズバリ、どツボ(笑)。

細かい話は後日ブログにて。
https://fukagawa-natsumi.hatenablog.com/

2022年8月18日

文学と哲学はいかに「病」の影響を受けてきたのか――を
文芸批評家が考察。
19世紀吸血鬼小説アンソロジー『吸血鬼ラスヴァン』
https://booklog.jp/users/fukagawanatsumi/archives/1/4488011152
解説で言及されていたので興味を持って読んでみた。
以下、非常にザックリしたまとめ。

■序章 パンデミックには日付がない
 パンデミックには「いつからいつまで」といった
 明確な日取り・期間が存在せず、
 ヒトの時間の感覚を麻痺させる。

■第一章 治癒・宗教・健康
 ケアは新種の道徳=日常生活における自発的医療化:
 人間は自分自身を日々モニタリングするよう、
 社会に仕向けられている。

■第二章 哲学における病
 [1]古代――プラトンからルクレティウスまで
  魔術から医学へ。
 [2]近代Ⅰ――デカルトとその批判者
  哲学と生理学の融合、
  抽象的な思弁を弄したロマン主義医学の盛衰。
 [3]近代Ⅱ――カント・ヘーゲル・ニーチェ
  哲学vs医学/唯心論vs唯物論。
 [4]近代Ⅲ――フロイトの精神分析
  細菌学のコッホや免疫学のジェンナーがもたらした
  巨大な変革に匹敵する(とフロイトが考えた)
  精神分析。
  フロイトは細菌学を一つのモデルとして、
  心の病因の特定という至難の業を
  成し遂げようとした。
  しかし、ラカンの精神分析に影響された
  フランス現代思想は
  人体と感染症の問題から遠ざかっていった。

■第三章 疫病と世界文学
 [1]古代――ホメロス・ソフォクレス・ヒポクラテス
  文学における疫病と医学。
 [2]ペスト――額縁・記録・啓示
  『デカメロン』と「赤死病の仮面」の、
  疫病と祝祭の隣接という類似性を指摘した
  ミハイル・バフチン。
 [3]コレラ――西洋を脅かす疫病
  ・ブラム・ストーカー『吸血鬼ドラキュラ』は
   アジア由来であるコレラの恐怖を反映している
   (善良な英国人・アメリカ人・オランダ人による
    病原=吸血鬼の殲滅劇)。
  ・コレラ文学のレジュメ:
   トーマス・マン『ヴェニスに死す』では
   病んだ環境が個人を圧倒する。
   文明人アッシェンバッハは
   東欧の美少年に幻惑され、
   アジアから西漸したコレラに冒される。
 [4]結核――ロマン主義の神話とその終焉
  結核文学のスーパー・ノヴァ、
  トーマス・マン『魔の山』は、
  この分野の最後の傑作で、
  現実を置き去りにして独歩した
  結核のロマンティックなイメージが有効だった時代
  =20世紀前半までの掉尾を飾った。
 [5]エイズ以降――疫病と文学の分離
  映画は感染とパニックの描写において
  文学を凌駕し、
  疫病テーマは文学の独占物ではなくなっていった。

■第四章 文学は医学をいかに描いたか
 [1]小説は薬か? 毒か?
  ラブレーは物語の薬効を語り、
  ルソーは毒を以て毒を制した
  →小説は「病の内なる治療薬」。
 [2]解剖学的想像力――ラブレーとフローベール
  医師の家系に生まれたフローベールは幼い頃から
  霊安室の遺体を盗み見たり
  父による解剖を覗き見したりしていた。
 [3]解剖学的SF――H.G.ウェルズとJ.G.バラード
  人間を分解して組み立て直したメアリー・シェリー
  『フランケンシュタイン』、
  H.G.ウェルズ『モロー博士の島』、
  更には解剖学を下地とする想像力の開花、
  人体を暴力的かつ精密に腑分けし...

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2022年7月31日

ジョン・ポリドリ「吸血鬼」の新訳目当てで購入、読了。
吸血鬼小説の鼻祖とされる
ブラム・ストーカー『吸血鬼ドラキュラ』より前に
発表されていた19世紀英米の吸血鬼小説アンソロジー。

【収録作】
 ジョージ・ゴードン・バイロン
 「吸血鬼ダーヴェル――断章」(Fragment of a Novel,1819)
 ジョン・ウィリアム・ポリドリ
 「吸血鬼ラスヴァン――奇譚」(The Vampyre:A Tale,1819)
 ユライア・デリック・ダーシー
 「黒い吸血鬼――サント・ドミンゴの伝説」
 (The Black Vampyre:A Legend of Saint Domingo,1819)
 ジェイムズ・マルコム・ライマー&
 トマス・プレスケット・プレスト
 「吸血鬼ヴァーニー――あるいは血の晩餐」
 (Varney the Vampire;or the Feast of Blood,1847)
 ウィリアム・ギルバート
 「ガードナル最後の領主」(The Last Lords of Gardonal,1867)
 イライザ・リン・リントン
 「カバネル夫人の末路」(The Fate of Madame Cabanel,1873)
 フィル・ロビンソン「食人樹」
 (The Man-Eating Tree,1881)
 アン・クロフォード「カンパーニャの怪」
 (A Mystery of the Campagna,1886)
 メアリ・エリザベス・ブラッドン
 「善良なるデュケイン老嬢」(Good Lady Ducayne,1896)
 ジョージ・シルヴェスター・ヴィエレック
 「魔王の館」(The House of the Vampire,1907)
 ※この作品のみ例外的に20世紀に入ってからのもの。

ジョン・ポリドリ「吸血鬼」の新訳目当てで購入、読了。
吸血鬼小説の鼻祖とされる
ブラム・ストーカー『吸血鬼ドラキュラ』より前に
発表されていた19世紀英米の吸血鬼小説アンソロジー。
やはりモダンホラーよりゴシックの方が自分の好みに合う……
と再認しつつ、表題作以外はあまり刺さらなかった。
概ね中途半端なボリュームで、
読んでいるうちに飽きてしまいがちだったせいかもしれない。
収穫はバイロンの未完の作「吸血鬼ダーヴェル」に
描かれなかった終盤の流れをポリドリが流用して
「吸血鬼ラスヴァン」が完成されたのを確認できた点と、
以前、原著のペーパーバックを
買って読もうかどうしようかと迷った
ライマー&プレスト「吸血鬼ヴァーニー」の抜粋を
読めたこと。
《ヴァーニー》は1845~1847年に英国の廉価週刊誌で
連載された長編“三文恐怖小説(ペニー・ドレッドフル)”
全232章(!)の抄訳。
フランシス・ヴァーニーと名乗る吸血鬼が
生き長らえるために人を襲って血を啜ったり、
財産を奪おうと画策したりするのだが、
複数の筆者によって書き継がれたらしく、
類似パターンのエピソードを繰り返すかと思えば、
主人公の来歴に都度矛盾が生じるといった
脈絡のなさを提示してもいる、歪な長編小説。
しかし、不自然なまでの長大さと、
ある種のデタラメさが、却って不老不死の吸血鬼なる
不条理な存在を活写することに貢献したと
言えるのではなかろうか。

*各編についてのコメントは後刻ブログにて。
 https://fukagawa-natsumi.hatenablog.com/

2022年7月12日

今年2021年5月に没した耽美幻想派の作家の作品から
山尾悠子がセレクトした逸品集。
収録作は、

 契
 ぬばたまの
 樅の木の下で
 R公の綴織画
 就眠儀式
 神聖羅馬帝国
 森の彼方の地
 天使Ⅰ
 天使Ⅱ
 天使Ⅲ
 木犀館殺人事件
 光と影
 エル・レリカリオ
 LES LILLAS――リラの憶ひ出
 月光浴
 銀毛狼皮
 悪霊の館
 掌編 滅紫篇
 聖家族Ⅰ
 聖家族Ⅱ
 聖家族Ⅲ
 聖家族Ⅳ
 蘭の祝福
 術競べ
 青い箱と銀色のお化け

――の、全25編。
隙のない流麗な文体で、
殊に掌編の上手さ(美味さ)が際立つ。

個人的BEST3を挙げるとしたら、圧巻の巻頭、
中秋の名月にチェンバロを奏でる
アルバイト要員を募集する《私》の目的「契」、
一人の青年を挟んで姉と弟が嫉妬し合うという
塚本邦雄(作者の短歌の師)の小説風な物語
「木犀館殺人事件」、
地図を広げて追憶に耽る男性の来し方、
ナボコフ「ある怪物双生児の生涯の数場面」への
オマージュ「聖家族Ⅳ」――といったところ。

作家自身の指向は知らないが、女嫌いなのか、
女性を排除した美的空間の構築に余念がなかった印象。
だが、読み進めるにつれ、
男性の同性愛や女性嫌悪云々より、
単に自己愛の強い人だったのか?
と感じるようになっていった。
鏡に映った自分の分身だけを愛していた――
とでも言おうか。
そう考えて表紙を見直したら
カラヴァッジョ「ナルキッソス」だったので、
やはり……と苦笑いしてしまった。

2021年10月1日

三島由紀夫晩年の文学論を中心に、
幻想小説をあしらったアンソロジー。
ちくま文庫『文豪怪談傑作選 三島由紀夫集~雛の宿』
https://booklog.jp/users/fukagawanatsumi/archives/1/4480423648
と重複するコンテンツが多いので、
既読の人には物足りないだろうが、
対談・書評・書簡篇「澁澤龍彦とともに」のために
買う価値はある……かもしれない。

構成は以下のとおり。
Ⅰ 幻想と怪奇に魅せられて(小説篇)
 「仲間」「朝顔」「卵」「緑色の夜」「鵲」
 「花山院」「黒島の王の物語の一場面」「伝説」
 「檜扇」
Ⅱ 王朝夢幻、鏡花の縁(戯曲篇)
 「屍人と宝」「あやめ」「狐会菊有明」
Ⅲ 澁澤龍彦とともに(対談・書評・書簡篇)
 「鏡花の魅力」「タルホの世界」
 「澁澤龍彦氏のこと」「現代偏奇館」「デカダンスの聖書」
 「澁澤龍彦訳『マルキ・ド・サド選集』序」
 「人間理性と悪」「恐しいほど明晰な伝記」
 「サド侯爵夫人について」「澁澤龍彦宛書簡集」
Ⅳ 怪奇幻想文学入門(評論篇)
 「本のことなど」「雨月物語について」
 「柳田國男『遠野物語』」
 「無題」(1964年,塔晶夫=中井英夫『虚無への供物』広告文)
 「稲垣足穂頌」「解説『日本の文学4 尾崎紅葉・泉鏡花』」
 「解説『日本の文学34 内田百閒・牧野信一・稲垣足穂』」
 「二種類のお手本」「小説とは何か」

Ⅰで印象深いのは、すれ違いから13年越しのめぐり会いへ――
というロマンティックな恋の話「伝説」(1948年)。
甘く優しい雰囲気にビックリしつつ(笑)
初出『マドモアゼル』とは小学館の女性誌かと思ったが、
発行期間は1960~1968年だそうだから、
違うのだろう(どなたかご教示ください)。
「檜扇」(1943~1944年)は北欧の街の片隅で
殿村が出会った領主フォン・ゴッフェルシュタアル男爵のエピソード。
日本人外交官である花守伯爵の美しい妻に懸想した男爵は……。
殿村が男爵と出会うまでの、
不慣れな街を心細くウロウロする様子に
日影丈吉「猫の泉」を連想した。

Ⅲの書簡集は、三島が澁澤に宛てたハガキ・封書
(澁澤龍子氏が保管していたもの)。
《昭和35年5月16日》
 > 今度の事件の結果、
 > もし貴下が前科者におなりになれば、
 > 小生は前科者の友人を持つわけで、
 > これ以上の光栄はありません。
 これは2008年の生誕80年回顧展(神奈川近代文学館)
 『ここちよいサロン』で実見
 https://www.museum.or.jp/event/48306
 「事件」とは「悪徳の栄え事件」=サド裁判のこと。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%82%AA%E5%BE%B3%E3%81%AE%E6%A0%84%E3%81%88%E4%BA%8B%E4%BB%B6

既読のパートにも新しい発見があったので、
今後の読書の寄る辺としたい。
ところで、お手元にこの本をお持ちの方は
中川学さんの美しい表紙をとくとご覧あれ。
シブサワもおるでよ(笑)。

2020年9月10日

1942年ロサンジェルス、
私立探偵トビー・ピータースは
気味の悪い悪戯に悩まされる吸血鬼俳優ベラ・ルゴシの
ボディガードになったが……。

冴えない中年探偵の活躍を描くシリーズの一作だそうで、
この作品だけ唐突に思い立って読んだので
「?」な部分もあったが、
主人公は元警官でバツイチで素寒貧、
ロサンジェルス市警の警部フィル・ペヴズナーとは
実の兄弟だが非常に折り合いが悪い、
しかし、甥っ子たちを可愛がってはいる――
ということは、よくわかった。

本作は、ベラ・ルゴシ(1882-1956)を助けてほしいと
ボリス・カーロフ(1887-1969)から相談されたトビーが、
ルゴシを護衛する中、
文豪ウィリアム・フォークナー(1897-1962)に掛かった
殺人容疑を晴らすという二刀流。
捜査を開始したトビーに魔の手が……といった流れ。
作家エージェントのジャック・シャツキンを殺害して
フォークナーに濡れ衣を着せた犯人を追う。

吸血鬼愛好家の集会という馬鹿馬鹿しくも愉快な場面で
始まる小説だが、
事件の本筋はあくまで現実的で、個人の利害に基づくもの。
物語はテンポよく展開するのだが、
ふと気づくと自分が何を読んでいるのか忘れている……
といった感触(笑)。

名声は得たものの、仕事の内容が理想と乖離して
不納得なベテラン俳優と、
素晴らしい作品を書きながら、
なかなかお金にならないという偉大な作家の姿に
哀愁が滲む。

後半で疲労困憊したトビーが見る妖しい夢の記述は、
ブラム・ストーカー『吸血鬼ドラキュラ』序盤で
ジョナサン・ハーカーが三人の美女に襲われるシーンの
パスティーシュか。
ここはちょっとドキッとした。

 「やりなさいよ。あなたが最初、次に私たちよ」
 「彼は強いわ。私たちみんなでキスしても大丈夫よ」
 (『吸血鬼に手を出すな』p.253)

 「おやりよ。おまえさんが先だよ。わたしたちはあとさ。
 おまえさんが皮切りだよ」
 「若くて丈夫そうな男だよ。三人で接吻したって大丈夫さ」
 (『吸血鬼ドラキュラ』創元推理文庫p.64,平井呈一=訳)

2020年4月11日

Amazon&ブクログでの表記は「ウィスキー奇譚集」だが、
正しくは「ウイスキー奇譚集」。
ベルギーのフラマン語圏出身で、
フランス語で小説を書いたジャン・レイ(レー)の
二つの怪奇幻想掌短編集
「ウイスキーのコント集」「霧の中での物語」を収録。
それでいて、各作品の主要な舞台は霧に煙るロンドン……
という具合に捻じれている(ロンドン以外もあり)。

■ウイスキーのコント集(8編)
 父を殺して床下に埋め、酒で気を紛らす男に、
 新たな餌を求めて襲いかかる鼠と昆虫「復讐」他、
 ウイスキーによる酔いから来る錯誤・幻想や、
 それらに纏わる怪談集。

■霧の中での物語(11編)
 墓地管理者のアシスタントに採用された老人の
 恐怖体験「墓守の供述」が
 思いがけない吸血鬼譚で拾いモノ(笑)。
 マッドサイエンティストの異様な発明が
 惨劇を引き起こし、
 その情景を遠く離れた場所で霊媒師が透視する――
 というラヴクラフト風怪奇SF
 「パウケンシュレーガー博士の奇怪な研究」も
 なかなか変(笑)。

アンソロジー『幻想の坩堝』収録、
闇と黒魔術に彩られた友情の物語「夜の主」
(作者名表記はジャン・レー)の印象に比べて
軽くアッサリした口当たり。
読後、Wikipediaを覗いたら、当人は酒は酒でも
ウィスキーでなくジンの中毒で亡くなった――とあって、
不謹慎ながら、ちょっと笑ってしまった(すいません)。

2020年3月11日

フランス幻想文学の祖と呼ばれる
シャルル・ノディエ(1780-1844)の短編集、全6編。
採集した民話を取り込んだような素朴なテイストあり、
夢の入れ子が織り成す、おぞましいタペストリーあり、
心の美しい者に対する優しい眼差しあり……といった趣。
図書館館長に任ぜられ、館内の住居で亡くなったというのは、
少し羨ましい気がしないでもない。

以下、全編についてザッとネタバレなしで。

■夜の一時の幻
 語り手は深夜の墓地で出会った奇妙な男の身の上話を聞いた。
 孤独な心と心の穏やかな触れ合い、そして、幻影の共有。

■スマラ(夜の霊)
 魔女と精霊が跋扈する悪夢の入れ子。
 恋人リシディスとイタリアのアローナで幸福に過ごす
 ロレンツォが見た甘美にして奇怪な夢の世界。

■トリルビー~アーガイルの小妖精(スコットランド物語)
 慎ましく幸せに暮らす夫婦の家には、
 トリルビーという名の小鬼が住み着き、
 他愛無いいたずらの傍ら、妻の動静を見守り、
 時にはさりげなく彼女をサポートしていた。
 ところが、ある日、妻がそれを夫に告げたところ、
 夫が司祭に相談したため、大事(おおごと)に……。
 あなたが、あなたを愛する僕の存在を確信し、
 家にいることを許してほしいだけなのだと、
 プラトニックラヴを黙認してくれと訴える
 トリルビーだったが、
 妻は妖精に気を許すことすら不貞の域に入ると捉えて
 煩悶するのだった(うーむ……)。

■青靴下のジャン=フランソワ
 18世紀末のブザンソンに、
 偏執狂にして幻視者でもあるジャン=フランソワという
 青年がいた。
 彼が見た白昼の幻、そして、予言とは……。

■死人の谷
 16世紀、万聖節の晩の事件、
 隠者の谷が「死人の谷」と名を替えた出来事。
 旅人を快く迎え入れる人のいい鍛冶屋と
 その家族の許に現れた、奇妙な二人の客について。

■ベアトリックス尼伝説
 一度は修道院を裏切り、挙げ句、身を持ち崩した
 ベアトリックスだったが、
 神への愛を失わなかった彼女にもたらされた奇蹟とは……。

2019年11月27日

高価な『山尾悠子作品集成』の廉価版。
同書から選ばれた11編を収めた、
お財布だけでなく手(腕)にも優しい軽量タイプ。
エッセイ4編が収録された別冊(中綴小冊子)が付いていて
得した気分。
初めて読むはずなのに既視感たっぷりで頭がクラクラした。
きっと作者の文章で酔っ払ったせいだろう。
幻想文学というより、奇想ギャラリーといった印象。
結構、皮肉に溢れているので、
幻想やファンタジーなどの単語から、
キラキラしたロマンティックな風景や人物を思い浮かべる人には、
毒気が強いからお薦めしない。
甘くない嗜好品のようなもの。
そんな中で唯一、
我々が暮らす現実世界と繋がっている「月蝕」が個人的ベスト。

*****

【2020/02/11 付記】

 収録作は、

 夢の棲む街
 月蝕
 ムーンゲイト
 遠近法
 童話・支那風小夜曲集
 透明族に関するエスキス
 私はその男にハンザ街で出会った
 傳説
 月齢
 眠れる美女
 天使論
 (自作解説)

 +

 エッセー抄本*夢の遠近法 栞
 ・人形の棲処
 ・頌春館の話
 ・チキン嬢の家
 ・ラヴクラフトとその偽作集団

2012年3月5日

猫が活躍するSF中短編小説アンソロジー。
地上編◆5作+宇宙編★5作。

 ◆ジェフリー・D・コイストラ「パフ」(Puff:1993年)
 ◆ロバート・F・ヤング
 「ピネロピへの贈りもの」(Pattern for Penelope:1954年)
 ◆デニス・ダンヴァーズ
 「ベンジャミンの治癒」(Healing Benjamin:2009年)
 ◆ナンシー・スプリンガー
 「化身」(In Carnation:1991年)
 ◆シオドア・スタージョン「ヘリックス・ザ・キャット」
 (Helix the Cat:1938/1939年)
 ★ジョディ・リン・ナイ「宇宙に猫パンチ」
 (Well Worth the Money:1992年)
 ★ジェイムズ・ホワイト「共謀者たち」
 (The Conspirators:1954年)
 ★ジェイムズ・H・シュミッツ
 「チックタックとわたし」(Novice:1962年)
 ★アンドレ・ノートン「猫の世界は灰色」
 (All Cats are Gray:1953年)
 ★フリッツ・ライバー「影の船」
 (Ship of Shadows:1969年)

少し事前の期待値が高過ぎたかな~(笑)。
中には「別に猫でなくてもいいんじゃ……」みたいなものも。
そんな中でハートを鷲掴みにされたのが、
執筆年が一番新しいダンヴァーズ「ベンジャミンの治癒」。
愛猫の死を受け入れられない飼い主が必死で介抱したら、
特異能力が発露し、猫は生き返り、しかも、
不老不死になるわ、人間の言葉で会話出来るようになるわ――で、
願ったり叶ったりと言いたいところだったが、
それを他人に知られてはいけないので
様々な苦労が……という話。
男一人と猫一匹が旅に出る展開が素晴らしい。
そして、結末は、
これまた飼い主にとって理想的なエンディングだろうけれども、
とても切ない。
グッと来た(涙)。

2019年10月5日

1930~1970年代英米の、恐怖に彩られたSF
あるいは科学色の強い怪奇小説セレクション全13編。
ホラーとSFという、別々に取り扱われる場合も多いジャンルが、
実はメビウスの帯のような関係にあることを
再認させてくれるアンソロジー。
殊に1950~1960年代のアメリカでは、
未曾有の経済的繁栄を謳歌する豊かな社会に、
外部からの悪意ある侵入者が迫りつつあるのでは――
という強迫観念を反映した文芸作品が持て囃された模様。
そのココロは
「“東側”のスパイが隣人に成り済ましていたらどうしよう」
的な不安だったに違いないが、
翻って、現代の我々にとっての仮想敵、
恐怖の源泉とは一体何だろう……などと考えてみたが以下略(笑)。

収録作は

リチャード・マシスン
 「消えた少女」 "Little Girl Lost"(1953年)
ディーン・R・クーンツ
 「悪夢団(ナイトメア・ギャング)」 "Nightmare Gang"(1970年)
シオドア・L・トーマス
 「群体」 "The Clone"(1959年)
フリッツ・ライバー
 「歴戦の勇士」 "The Oldest Soldier"(1960年)
キース・ロバーツ
 「ボールターのカナリア」 "Boulter's Canaries"(1965年)
ジョン・W・キャンベル・ジュニア
 「影が行く」 "Who Goes There?"(1938年)
フィリップ・K・ディック
 「探検隊帰る」 "Explores We"(1959年)
デーモン・ナイト
 「仮面」 "Masks"(1968年)
ロジャー・ゼラズニイ
 「吸血機伝説」 "The Stainless Steel Leech"(1963年)
クラーク・アシュトン・スミス
 「ヨー・ヴォムビスの地下墓地」 "The Vault of Yoh-Vombis"(1932年)
ジャック・ヴァンス
 「五つの月が昇るとき」 "When the Five Moons Rise"(1954年)
アルフレッド・ベスター
 「ごきげん目盛り」 "Fondly Fahrenheit"(1958年)
ブライアン・W・オールディス
 「唾の樹」 "The Saliva Tree"(1965年)

面白かったのは、これまで三度も映画化された表題作
「影が行く」。
南極の基地で強い磁力を探知した研究者たちは、
原因を探りに行って氷漬けの異星船を発見。
解凍されたエイリアンは犬橇の犬の姿を模倣して同化し――
という『遊星からの物体X』なのだが、
宇宙生物の不気味さよりも、隣にいる仲間が既に殺され、
“それ”に成り替わられているのでは……と
疑心暗鬼を生ずる閉鎖的空間におけるサスペンス感覚が
素晴らしい。

舞台が火星だからSF扱いだけど
中身はクトゥルー神話じゃないかよ(喜)! な、
遺跡を調査する考古学者チームが“おぞましいもの”に
遭遇する、クラーク・アシュトン・スミス
「ヨー・ヴォムビスの地下墓地」 が、
オチの付け方まで含めて好みのタイプだった。

2019年8月29日

表題に惹かれて古本を購入。
即座に思い浮かべたのは
ジョン・カーペンター『マウス・オブ・マッドネス』。
https://booklog.jp/item/1/B00EIG5QCY
きっとラヴクラフト的世界観の短編を収集した本なのだろうな……
という予想は、ちょっぴり当たりで、かなり外れていたが(笑)
粒揃いの作品集で、想定外の満足度。
ある種のモンスターが跋扈する英米のホラー小説、全10編。

■ジョゼフ・ペイン・ブレナン
 「沼の怪」 "Slime"(1953年)
■デイヴィッド・H・ケラー
 「妖虫」 "The Worm"(1929年)
■P・スカイラー・ミラー
 「アウター砂州(ショール)に打ちあげられたもの」
  "The Thing on Outer Shoal"(1947年)
■シオドア・スタージョン「それ」 "It"(1940年)
■フランク・ベルナップ・ロング「千の脚を持つ男」
  "The Man with a Thousand Legs"(1927年)
■アヴラム・デイヴィッドスン「アパートの住人」
  "The Tenant"(1960年)
■ジョン・コリア「船から落ちた男」
  "Man Overboard"(1960年)
■R・チェットウィンド=ヘイズ「獲物を求めて」
  "Looking for Something to Suck"(1969年)
■ジョン・ウィンダム「お人好し」
  "More Spinned Against"(1953年)
■キース・ロバーツ「スカーレット・レイディ」
  "The Scarlet Lady"(1966年)

ちなみに、あとがきによれば、
編訳者の念頭にあったのは『ウルトラQ』のイメージだったとか。

以下、特に面白かった作品について、ネタバレなしで少々。

スタージョン「それ」
 牧場主である兄を手伝う弟オルトンと
 相棒の猟犬を襲った“それ”の正体は……。

ロング「千の脚を持つ男」
 世間に才能を認められない天才の欲求が捻じれて
 奇天烈な発明を……。
 ラヴクラフトを囲むサークルの古参だったという作者の、
 ラヴクラフト作品をグッと親しみやすく
 馬鹿馬鹿しくした雰囲気の怪作。
 怪物と接触した人々の証言を継ぎ合わせた叙述形式が
 ブラム・ストーカー『吸血鬼ドラキュラ』風。

ロバーツ「スカーレット・レイディ」
 会計士ジャッキー・フレデリクスが手に入れた
 美麗な車は生き血に飢えていた。
 その真っ赤な車、
 スカーレット・レイディに取り憑かれたかのような
 弟を必死に止めようとする、
 兄の自動車整備士ビルだったが……。
 あの長編『パヴァーヌ』
 https://booklog.jp/users/fukagawanatsumi/archives/1/4480429964
 の作者が、
 スティーヴン・キング『クリスティーン』の
 先駆のような作品を書いていたとは。
 話の“落とし方”も、凄く好みのタイプ。

2019年8月17日

ちくま文庫『文豪怪談傑作選』の川端康成集を読んだ流れで、
こちらも購入、読了。
怪奇・幻想系の短編小説と書評、及び文学論が収録されている。
以下、小説の中で特に面白かった作品について、ネタバレなしで。

■朝顔(1951年)
 17歳で病死した妹との思い出と、彼女の夢。
 再会したのは夢の中でだったのか、あるいは……。

■雛の宿(1953年)
 暇潰しに「銀ブラ」する大学生は
 パチンコ屋で場にそぐわない少女と出会った。
 コツを教えたり、学生向けの店で軽い夕食をご馳走したりした後、
 母が雛祭りの支度をしているから……と、彼女の家に招かれたが――。
 結末にはタイトルでおよそ見当がつく、
 都市伝説風の嫌な後味の話(笑)。

■切符(1963年)
 商店連合会の会合の後、洋服屋の主人・松山仙一郎は、
 夏季夜間営業の招待券を仲間に振る舞って
 近くの遊園地へ行き、お化け屋敷に入った。
 妻・富子の問題について、時計屋の谷と話すのが狙いだったが……。
 これは見事な怪談。
 まんまと一杯食わされた!

■仲間(1966年)
 湿った重いコートを着て霧に煙るロンドンをさまよう
 「僕」と「お父さん」は、
 少し酔った「あの人」に出会い、古びた屋敷に招待された――。
 再読。
 「血」「吸血鬼」といった単語は出て来ないが、
 きっと彼らは人知れず仲間を探し当てた
 ヴァンパイアなのだろうと思える、
 謎めいた、奥行きのある佳品。
 あまり深く考察するのは野暮のような気がする。

■月澹荘綺譚(1965年)
 「私」は伊豆を旅して、
 焼失した月澹荘なる大澤侯爵の別荘にまつわる話を聞いた。
 語ったのは、かつての管理人の息子で、
 侯爵の嫡男・照茂と幼馴染だったという老人・勝造。
 照茂の奇妙な行動様式・性癖と、それが引き起こした事件の顛末。
 屈折した支配欲と、実力行使の不能性。
 語り手が単なる聞き役の旅人という形式が泉鏡花風。
 Wikipediaによると、1990年にテレビドラマ化されていたとか。
 だが、実写映像では生々しくなり過ぎる嫌いがあるので、
 読者が本文から自在にイメージを膨らませた方が
 幻想的かつエロティックでよい気がする。

2019年6月26日

在日米軍基地で問題を起こし、
アメリカに強制送還された23歳の兵士ジョージ・スミス(仮名)。
陸軍病院の独房で精神鑑定を受けることになった彼は
何故、手紙を検閲し、質問を投げかけたマンソン少佐を殴ったのか、
また、その際に
自ら握り潰したグラスで負傷した手から滴る血を舐めたのか……

というミステリ。
ジョージ・スミス(仮名)に問診する
若い精神科医アウターブリッジ軍曹の奮闘が、
上官であり親友でもあるウィリアムズ大佐との、
皮肉と友情に満ちた往復書簡によって浮かび上がり、
成育歴を知るべく、ジョージに綴らせた回想記が開陳される、
いわゆる「雑多なテクスト」構成の小説。

ジョージがどういうタイプの吸血鬼か、そして、
いかにしてそうなったのかを暴く
探偵小説風の作品なのだが、探偵役を精神科医が務める点が、
精神分析学や性科学が人口に膾炙した発表当時(1961年)、
多くの読者を惹きつけたのだろうか――

と考えつつ、実は再々読くらいの段階で、
これはもしやブラム・ストーカー『吸血鬼ドラキュラ』への
オマージュではないのか、とも思っていた。
本作も『吸血鬼ドラキュラ』同様、
様々な文書がズラズラーッと並べられているのだが、
大きな違いは、そうしたテクスト群を整理して
読者に差し出す「誰か」が存在する、という点。
これがオープニングとエンディングで
怪しい囁きを発する「信頼できない語り手」で、
しかも、それが催眠術師のような口調で語っているところが、
何とも不気味なのだった。

つくづく地味で、華やかさのかけらもないけれど、
妙に味わい深くクセになる、不思議な物語。
きっとこれからも何度となく読み返すだろう。
私は貴族的な風貌のイケメン吸血鬼が
恋愛に奥手でシャイな女の子を見初めて云々……
といったタイプの話より、
こういう普通の人間の暗黒面に光を当てるような小説が好きだから。

2019年5月18日

ヤロスラフ・オルシャ・Jr.【編】『チェコSF短編小説集』に
掲載された、チェコのSF系作品の情報が気になったので、
それらの一部を含むアンソロジーを探して購入、読了。
ポーランド、チェコ、スロヴァキア、ハンガリー、
セルビア、マケドニア、ルーマニア、ロシア、
その他の地域の佳品を精選した、
怪奇・幻想色の強い、読み応えのある一冊(全26編)。
「吸血鬼」というタイトルが2編登場するところにも、
さすが東欧! と、唸った(ルーマニア産ではなかったが)。

以下、各編についてネタバレしない程度に一言、二言。

■ヤン・ポトツキ『サラゴサ手稿』第53日
 「トラルバの騎士分団長(コマンドール)の物語」(ポーランド)
 フランス語版原著からの翻訳。
 全66話の幻想譚『サラゴサ手稿』の14話のみ収録された
 国書刊行会版に含まれない第53日目のエピソード。
 青年の頃、マルタ騎士団に所属していた際の怪事を語る男。
 嫌われ者の分団長を決闘に追い込み、命を奪った青年は、悪夢に魘され……。

■フランシチェク・ミランドラ「不思議通り」(ポーランド)
 蛇口から落ちる水滴の音に意味を聞き取ってしまった男は
 外へ飛び出し、
 別世界へ通じる入口への案内人に出会ったが……。

■ステファン・グラビンスキ「シャモタ氏の恋人」(ポーランド)
 社交界の華として有名な美女の誘いを受けたシャモタ氏は、
 彼女の屋敷へ通い始めたが……。

■スワヴォーミル・ムロージェック「笑うでぶ」(ポーランド)
 爆笑する巨漢たちの、笑いの源は……。

■レシェク・コワコフスキ「こぶ」(ポーランド)
 ライロニア国の石工アイヨの身体に奇妙な瘤が出来、
 医師が集まって治療を始めたが……。

■ヨネカワ・カズミ「蝿」(ポーランド)
 ポーランドに移住し、事故で早逝した日本人・米川和美が
 ポーランド語で綴った作品。
 蝿を殺して罪悪感を覚える青年に
 「ヤツは読書の邪魔をした」と告げる悪魔。

■ヤン・ネルダ「吸血鬼」(チェコ)
 トルコのマルマラ海に浮かぶ島でバカンスを楽しむ人々。
 語り手は上品なポーランド人一家と親しくなったが、
 若いギリシャ人の画家も
 一同と付かず離れずの距離を保っていた。
 その画家が描いていたのは……。
 牙を剥いて獲物に襲いかかるタイプではない
 「他者の生命を吸い取る」吸血鬼的な男の話。

■アロイス・イラーセク「ファウストの館」(チェコ)
 困窮した大学生が寝床を求めて忍び込んだのは、
 かつてファウスト博士が
 悪魔に魂を売り渡した屋敷だった。
 H.H.エーヴェルス『プラークの大学生』を連想。

■カレル・チャペック「足あと」(チェコ)
 深夜、雪の中を帰宅したリプカ氏の目に入ったのは
 自宅前に続く不自然な足跡だった――。
 妙にほっこりする怪談。

■イジー・カラーセク・ゼ・ルヴォヴィツ「不吉なマドンナ」(チェコ)
 絵画に造詣の深い人々が、
 コレクターでもある医師の家で歓談。
 客の一人の作家が語った、
 手に入れそこなった呪われた絵の逸話。

■エダ・クリセオヴァー「生まれそこなった命」(チェコ)
 友人が所有する山小屋で夜を明かそうとするカップルを
 「誰か」が見つめている。
 呪われた家の話。

■フランシチェク・シヴァントネル「出会い」(スロヴァキア)
 製材所の夜警の前に不意に現れたのは、
 服役を終えて出所したか、あるいは脱獄犯と思われる男。
 その不気味な身の上話。

■ヤーン・レンチョ「静寂」(スロヴァキア)
 山小屋で世間の喧騒を忘れて寛ぐ男が異変に気づく。
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2018年11月3日

読書状況 読み終わった [2018年11月3日]
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昨年読んだ「奇妙な味」アンソロジー『夜の夢見の川』
https://booklog.jp/users/fukagawanatsumi/archives/1/4488555055
が、面白かったので、
順序が逆になったが、先に出ていたこの本も購入、読了。
英米の何だかちょっと変な短編集、全18編。
但し、カバー画の雰囲気に釣られて手を出すと
期待外れに終わる可能性大――と、申し上げておきましょう。
あんな雰囲気の兄さんは登場しない(笑)。
以下、特に印象的な作品について。

■ジョン・アンソニー・ウェスト「肥満翼賛クラブ」
 原題は「Gladys's Gregory」=「グラディスのグレゴリー」。
 ある町の伝統的なイベントに参加する夫婦たちの
 涙ぐましい奮闘に、黒い笑いが込み上げる。
 詳述を憚られるお下劣奇談。
 これを読んで眉をひそめる読者もいれば
 ケラケラ笑う読者もいると思うが、
 私は後者の皆さんの仲間(笑)。
 ともあれ、素晴らしい超・意訳邦題に拍手!

■ロナルド・ダンカン「姉の夫」
 原題は「consanguinity」
 =「血族」あるいは「密接な結び付き」。
 第二次世界大戦中のイギリス。
 休暇を得て帰省する列車で
 同じコンパートメントに座った大尉と少佐。
 大尉は少佐を自宅に招き、姉に引き合わせる。
 弟のサポートにのみ喜びを見出してきた姉は
 初めて外部から訪れた男性に好感を抱き、
 少佐と結婚。
 しかし、弟も同行する新婚旅行の途中で……。
 英国怪奇小説の伝統に則った朦朧法による怪異譚。

■ケイト・ウィルヘルム「遭遇」
 妻と口論して先にスキー場から引き揚げた
 保険外交員ランドルフ・クレインは、
 大雪のためバスターミナルで足止めを食う。
 待合室で寒さに震えながら、
 たまたま居合わせた女性と共に
 暖房器具を調節しようと試みたが……。
 主人公の暗黒面が徐々に暴かれていく展開だが、
 ラストの解釈が難しい。
 一理ありげな意見をネット上で発見したが、
 それは編者の言う「SF的な解釈」には
 相当しそうにないので、悩みは深まる。
 しかし、そこが何とも面白い。

■ネルスン・ボンド「街角の書店」
 煮詰まった小説家が、
 心臓発作で亡くなった詩人が訪れていた街角の書店へ
 向かうと、
 そこには様々な有名作家の未発表作と共に、
 詩人が刊行するつもりで果たせなかった詩集が並び、
 しかも……。
 オチはありきたりだが、
 創作に携わる者の苦悩と願望と惑乱が、
 切なく、悲しい。

2018年9月26日

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