第4回氷室冴子青春文学賞大賞の表題作とアイアムアハッピー・フォーエバーの2編。
表題作は350ページ弱の一冊の3分の1程で残りが2編目というかなりの変則構成。
家に帰ると「さらってきちゃった」という穏やかでない母の言葉と共にあっけらかんと居を構えるバナミの姿が。
母のパート先の元同僚で病により余命宣告されている身だという。
夫も息子もいるのになぜうちで世話を!?
主人公蒼子(そうこ)の憤りもよそに、無神経とも言えるバナミ(とその病身の世話)が日常に溶け込んでくる。
蒼子は受験生だが、学校でイジメに遭い塾通いのみで高校受験を目指す。
塾でできた親友ヒナちゃんとの関係が救いとなっているが、そのヒナちゃんは家庭内暴力の悩みを抱えている。
とあるきっかけから、2人の受験生とバナミの距離が縮まったことから、高校には行けず、中学すら中途半端だったというバナミの希望を掬い、3人での受験勉強生活が始まる。
その過程、英語のifの用法を巡る場面に心震える。
if I were a bird, I could fly freely in the sky
もし、私が鳥だったら空を自由に飛べるのに。
仮定法過去ってやつですね。
そうではないことが分かっている中で示す願望。
でも文法的な解釈はさておき、
if it rains, I hold an umbrella
雨が降ったときは、傘を差します。
の「とき」のようにifを扱ったっていいじゃないかと。
私が鳥のときは、空を自由に飛びます。
前半の負の感情渦巻く不安定さ、中盤に感じる希望、終盤で訪れるそれでもの苦味、さすが氷室冴子青春文学賞大賞と感ずる一編でした。
一転、「アイアムアハッピー・フォーエバー」はバナミの青春時代(中1)の話。
理不尽な上下関係はびこる中学の部活を跳ね除ける、若くしなやかな友情の力を感じる爽快物語。
ミステリ読みの自分からすると、いろいろと伏線かと思っていたのがあれ?みたいな肩透かしのようなエピソードも多々あるのだけれど、「まともに練習したい!」と東奔西走する純粋なティーンズ達の姿は、読んでいるだけで力を貰える。
あー、部活したい!!
さて、この2話目と1話目の間の空白の時間。
バナミは中3で妊娠、出産し、「結構人気者だと思っていたけど、子どもが出来た途端に皆離れていった」と語っていた。
そのミッシングリンク的な物語も作者の頭の中にはありそうな気がするけれど、その話はエンディングが難しいか。。。
- 感想投稿日 : 2024年3月3日
- 読了日 : 2024年2月26日
- 本棚登録日 : 2024年3月3日
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