東京都杉並区高円寺。とあるアパートの1室に入居した20歳の美菜。専門学校に入学するため、北海道から上京してきたばかりだ。さっそくお隣さんに挨拶に伺ったところ……。
人を見かけで判断することのリスクをコミカルに描くサスペンスコメディ。
◇
美菜がアパートで荷解きを半分ほど終えたところで携帯に着信があった。実家からだ。
さっそく出てみるとママの雅子だった。ママが片づき具合を尋ね、すぐパパの洋一に替わる。パパは腰を痛めて引越を手伝えなかったことをすまなそうに謝っている。
そして、またママが出て、お隣さんに挨拶に行くよう念押しして電話は切れた。2人とも用事というより娘が心配なだけのようだ。
今日からここ、東京高円寺のアパート、あすなろ荘で美菜のひとり暮らしが始まる。両親の声を聞いたことでもうホームシックになりそうな自分を励まし、美菜はお隣さんに挨拶に行くことにした。
このあすなろ荘の住人は美菜を除くと、お隣さんだけだ。留守かもと思いつつチャイムを押すと、しばらくしてドアが開いた。
姿を見せた若い男に、美菜は息を呑んだ。190㌢ はある長身。しかも映画スターのような渋いマスク。まさしく美菜の好みにドンピシャの男性だった。
ドギマギしながら自己紹介して挨拶の品を手渡す美菜を見て「ああ、ありがとうございます」と言った男の声がまた魅力的なバリトンボイス。聞き惚れてしまった美菜は、
「あの……、素敵な声ですね」
と思わず口にしていた。( 第1話 ) ※全21話。
* * * * *
都心から少し外れた町、高円寺。古びたアパートもまだ多くあり、学生や単身者には住みやすい。そのぶん住民の転出入の回転が速いためアパートなどは人間関係が希薄になりがちです。
そんな「隣は何をする人ぞ」の状況をうまく利用して伝説の殺し屋が暗躍するストーリーとあって、楽しく読み進められました。
とても親しい人にでも自分の知らない面があったりするのですから、外見や人当たりだけでこんな人だと思っていた人の「別の顔」になど普通は気づくべくもないでしょうね。
藤崎さんお得意の叙述トリックに、またしてもみごとに引っかかってしまいました。自分の先入観の狭さには、もう苦笑するしかありません。
少しでも内容に触れるとネタバレに繋がりそうなので、このあたりでやめておきます。
エンタメ好きな人にオススメです。
- 感想投稿日 : 2024年10月6日
- 読了日 : 2024年10月6日
- 本棚登録日 : 2024年9月15日
みんなの感想をみる