小さな寺の跡継ぎを嫌い出奔するも夢破れ帰宅。俗と欲を捨て、仏道修行に邁進することにした副住職・照月の奮闘を描く。
プロローグおよび5章からなり、お仕事小説としての側面もある。
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ずいぶん地味な小説だなあというのが読み始めの印象。夜な夜な営業するバー極楽やバーを切り盛りするフミヨ・テイ子の姉妹にも、惹きつけられるイメージがちっとも湧かない。
でも1章を読み終える頃には ( 作品の雰囲気に慣れたせいもあるでしょうが ) おもしろくなってきました。これは地域に根差す寺としての困り事解決ミステリーだとわかったからです。
実際に解決するのは照月なのですが、問題の本質を見抜いて解決への道筋をつけるのは、夜のバーで菩薩の微笑を浮かべるテイ子です。また、奔放なフミヨの思いつきのような感想も大きなヒントになったりします。つまり真の探偵は、妖しげなバーの妖しげな姉妹なのでした。
照月が遭遇する問題を、バーの中で解決する姉妹。安楽椅子探偵ならぬ極楽バー探偵。この設定がとてもおもしろかった。
各章のタイトルも凝っています。バーの付きだし(4章以外) と仏教用語の組み合わせ。いずれも問題解決に関わる、各章のポイントになっています。そして照月の僧侶としての成長にもつながっているのです。すばらしい。
照月が関わる問題もバラエティーに富んでいておもしろい。
檀家、地域、新たな信者。彼らが持ち込むのは信仰心とは無関係。俗にまみれた問題です。
対して、昼は照月、夜は極楽姉妹。寺の仕切役が替わることで問題を違う角度から捉えることができています。だから解決は鮮やかです。この展開もいい。
不満があるとすれば、極楽姉妹の正体と住職の荒行の事情が明かされなかったことです。
遠藤さんは続編で明らかにするつもりなのだろうと信じていますが、『バー極楽』出版後そろそろ4年が経過します。少し待たせ過ぎではないでしょうか。1日でも早い上梓を熱望しています。
- 感想投稿日 : 2022年8月17日
- 読了日 : 2022年8月17日
- 本棚登録日 : 2022年8月17日
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