ロスジェネ世代で現在フリーライターの40男が主人公。その中途半端な人生に対する思いや(本人なりに)足掻こうとする姿を描く連作短編集。6話からなる。
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文筆業と言っても請負仕事ばかりで固定給のないフリーランス。自宅住まいで住居費が安くつくとは言え、ワーキングプアに近い生活。独身。恋人なし。
描き方によっては暗く重い作品になりそうですが、本作が醸し出しているのは軽く淡々とした空気。主人公の吉井もあまり悲観的にならず前向きに日々を送っていて、その日常のスケッチのような描写で物語が進んでいきます。
小野寺文宜さんの作風に少し似ていてとても好もしい。平岡さんはこんなタイプの作品も書くのかとうれしくなりました。
また、テーマに関わるポイントは太字になっていて、主人公が「本当の人生を起動したい」と思って行動していることがわかります。
特に最終話で日本酒の醸造に喩えた表現が秀逸でした。就職氷河期に遭遇した若者が永遠に続くかに見えるモラトリアム期から抜け出そうと足掻く姿が、絶妙に描けていたと思います。
「希望を抱かぬ者は失望することもない」というバーナード・ショーの言葉に感銘を受けながらも、吉井が1度は振られてしまったアスパーガール・名美にメールを送るラストシーン。印象に強く残りました。
ところで、気になったのは最終話の銘酒の扱いです。
取り上げられた銘酒は基本的に生酒で要冷蔵のものばかりのはずです。ワンルームによく置かれるような冷蔵庫に収納可能とはとても思えません。
考えられるのはキッチンや部屋の隅に直置きすることですが、それでは発酵が進み味が壊れてしまうだけです。
ましてや抜栓後の飲み残しを数日後に飲むシーンがありましたが、その頃には酸化が進んですでに腐敗しているでしょう。
平岡さんにしては取材不足でリアリティに欠けると言わざるを得ません。残念でした。
- 感想投稿日 : 2022年7月24日
- 読了日 : 2022年7月22日
- 本棚登録日 : 2022年7月22日
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