破滅の王

著者 :
  • 双葉社 (2017年11月21日発売)
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感想 : 74
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日中戦争を背景にした重厚なミステリ。
毒性が強く、感染したら治療法が確立していない細菌。
それを細菌兵器化しようとする動きと、何とかして阻止しようとする人々の息詰まる攻防が描かれる。

上海自然科学研究所に赴任した細菌学者、宮本敏明は、同僚六川正一の失踪事件を機に、細菌兵器R2v開発計画を知ることになる。
開発した真須木は菌と分割した論文を列強の大使館に送り付けたことから、各国の諜報機関が血眼になって菌の詳細や治療方法を探り始める。
細菌兵器は解毒方法も確立していなければ、実用には堪えない。
戦局の進行で、どこかが先に使うのでは、と疑心暗鬼にもなる。
宮本の知識を利用しようと、計画をリークした陸軍少佐灰塚にも何か組織の意向とは違う目論見があるらしく…。

と書いてみたが、まず、複雑な国際関係、組織の力関係、そのうえ人物も多く、複雑で、自分の把握した内容でいいのか心もとない。
舞台も上海から満州へ、そして残りわずかになって何と降伏間近のベルリンにまで飛ぶ。
筋を追いかけるだけでも大仕事だ。

科学者や医者が、自分の持つ知識や技術をどう使うべきかという倫理の問題が一つの大きなテーマだったと思う。
今は戦時だから、軍隊では上からの命令は絶対だから、という言い訳を自分に許すことができるか。
刻々と変わる情勢の中、一部の人を見殺しにして、被害の拡大を食い止める判断を下すのは許されるのか。
これはフィクションだけれど、戦時にはこういう過酷な立場に追い込まれた人も現実にいたのだろう。

通州事変で殺された沖縄出身の外交官、田場盛義は実在の人物とのこと。
この人についてもう少し知りたい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2019年5月2日
読了日 : 2019年5月2日
本棚登録日 : 2019年5月2日

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