伝説の漢文参考書二畳庵主人(加地伸行)著『漢文法基礎』が講談社学術文庫から改定再版されました。この本はZ会の大学受験生用に書かれたものを本にしているわけですが、単なる受験参考書という枠にとどまらず、漢文読解力の向上を志すものや漢文・漢詩に興味のあるものをも取り込む(むしろそっちの方が有益ではないかと思う)一大文法書となっています。それは「基礎」と銘打っているもの、その意味は著者も「私の言おうとする基礎とは、あれこれ経験を経たのちの最後の段階のフナつりに当たる。初歩的知識というのは、魚つりを始めるころのフナつりを指している。最後の境地のフナつりは、形こそフナつりで同じだが、その内容は、まったく異なるのだ。基礎というのは、初歩的知識に対して、いったいそれはいかなる意味を持っているのか、ということ。つまりその本質を反省することなのである。初歩的知識を確認したり、初歩的知識を覚える、といったことではなく、その初歩的知識を材料にして、それのもっている本質を根本的に反省するということなのである。・・・だから、諸君が漢文の初歩をすでに知っているということを前提として話を進めたい。」(35頁)という如く、単なるハウトゥー本ではありません。ですから、「これだけ覚えればよい」などと受験生に“都合のよい”単純化はせず、一つ一つの詞・句・節を徹底的に分析し、解説しています。おそらく初学者がいきなりこの本を取ったとしても理解するのは難しいでしょう。まずはしっかりと授業を聞いて、ある程度漢文の力を付けた上で熟読することをお勧めします。しかしある程度の漢文力を身につけた上でこの本を読むと、こんなに漢文力の向上を実感できる本はそうはありません。これまでいろいろと漢文法の本は読んできましたが、こんな気持ちになったのは小川環樹・西田太一郎両先生の『漢文入門』(岩波書店)以来です。
この本の底本となっている増進会版の方では本書に掲載されている「基礎編」「助字編」「構文編」に加えて「問題編」「中国の文化と社会と」が含まれていたそうで、この「中国の文化と社会と」は別の形での出版を計画しているそうですが、「問題編」は今のところ出版予定はないようです。是非、「問題編」も穴が空くほど目を通したい、と本当に強く感じます。
- 感想投稿日 : 2011年1月30日
- 読了日 : 2011年1月30日
- 本棚登録日 : 2011年1月30日
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