地取り

著者 :
  • 朝日新聞出版 (2009年5月7日発売)
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本棚登録 : 45
感想 : 10
3

通常の警察ミステリとは少し趣が違う。作者の前身が警察官ということが作品に与える影響は、プラスマイナス両方あるように思える。
プラス面。これはもう圧倒的なディテ−ルの細かさだろう。事件前の待機期間から、捜査、解決に至るまでの一連の流れは丁寧で細やか。本作品はそれぞれの“役割”に重きを置いてあり、その現場にいた者しか知りえない温度や匂いといったものが行間から伝わってくる。しかも、小難しい表現は一切なく、簡素に要約してあるので大変読みやすい。
マイナス面というか少し気になったのは、キャラに作家の意見を代弁させるシーン。ただこれは、言ってることも正論だし、読んでて不快に感じることはないのだが、あまり多くなると作中のエンタメ要素が損なわれ、読者に無駄な緊張を強いる小説になりそうな気もする。
ミステリとしての伏線の使い方も巧いし、贅肉のないスリムな筆致と流れのあるストーリー展開を見ても、作家としてのレベルは高いと思う。小説デビュー作としては上出来なのでは。今後は、自身の経験と題材がいかにうまく結びつくかがポイントになりそう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 社会派ミステリ
感想投稿日 : 2009年6月6日
読了日 : 2009年6月6日
本棚登録日 : 2009年6月6日

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