雷電本紀 (小学館文庫)

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本棚登録 : 266
レビュー : 33
著者 :
源氏川苦心さん 日本の作家   読み終わった 

相撲界は相変らず問題続きで、ワイドショウの恰好の餌食となつてをります。では角界といふのは、昔は良くて最近急に駄目になつたのか。いやいやさうではありますまい。
例へば暴力問題。昔は「兄弟子はムリ偏に拳骨」と呼ばれたやうに、とにかく口より手が先に出る指導だと言はれてゐます。暴力の無い日はなかつたでせう。弟弟子は「なにくそ、今に見てをれ」と、歯を喰ひしばつて耐へたのであります。そして自分が兄弟子になると、「俺もかうして強くなつたのだ。これは後輩の為の愛のムチなのだ」と信じ込み、今度は後輩に鉄拳指導・制裁を加へるやうになるのでした。

当時は問題にもならなかつたでせう。しかし時代は暴力(体罰含む)否定であります。昔と比較すれば遥かに民主化された相撲部屋ですが、それでも一朝一夕に暴力根絶とは参りません。八角理事長は頑張つてゐるとは思ひますが、兎に角相撲協会憎しの逆風は強い。その反動で、世間はあの貴乃花親方を擁護したのでせう。しかしどう考へても協会より貴が悪い。白鵬ふうに言へば、本来子供でも分かる事なのに、相撲協会に反発する一派に喝采を送ることで世間は溜飲を下げてゐたのでせう。
序でに申せば、やはり風当りの強い池坊氏の発言も、わたくしは至極当然の常識的なものだと考へます。

さて、何かと伝統伝統と強調する相撲界。しかし実態はどうだつたのか。改革なくして、現在までこの興行が続いてゐるとは思へぬのですが。
本書『雷電本紀』の時代は、力士は各藩お抱へで、スポンサアである藩の意向が色濃く土俵に反映されてゐました。
その為には拵へ相撲もするし、勝負が明らかな一番に物言ひを付けて、強引に預りや引分にしたりするのです。
そんな時代に一人敢然と立ち向かつた雷電。折しも世は飢饉続きで庶民は飢餓寸前、更に悪政が拍車をかけてゐた正にその時、民衆はこの雷電に希望を託したのであります.....

生涯に僅か10敗しかしなかつたといふ強豪力士を主人公にした、骨太の評伝小説であります。あくまでも小説なので、実在しない人物も出れば、時代背景に目を瞑つた部分もあります。しかし改革者の孤独といふものは時代を問はず、普遍性を持つものでせう。同時にその足を引張る一派の愚劣さも同様ですね。
最後の釣鐘新造騒ぎは、純粋な雷電の心持が政争に利用された感があり、眞に腹立たしい。この世渡り下手では、如何に強くても「ヨコヅナ」の称号は遠かつたのでせう。
さはさりながら、力士として以前に、人間として実に魅力的な人物を創造した本作は、細いかも知れないが長く読み継がれるのではないでせうか。

http://genjigawa.blog.fc2.com/blog-entry-745.html

レビュー投稿日
2018年4月16日
読了日
2018年4月16日
本棚登録日
2018年4月16日
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