出版禁止 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2017年3月1日発売)
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著者の長江俊和氏の事は寡聞にして存じ上げませんでしたが、テレビの人なんですね。ディレクタアとか演出家とか色色ご活躍されてゐるやうです。筒井康隆原作「富豪刑事」も手掛けてゐたとか。あれは面白かつた。
深夜放送の「放送禁止」といふのが有名ださうで、自らの脚本・監督で映画化もされてゐます。他にも「なになに禁止」といふ作品がいくつかあつて、本書『出版禁止』もその一つであります。

長江俊和氏は知人から、掲載禁止となつたあるルポルタージュの原稿を手に入れます。タイトルは「カミュの刺客」、筆者は若橋呉成といふルポライター。内容は、執筆時より七年前に起きたある心中事件をテエマにしてをります。著名なドキュメンタリイ作家であつた熊切敏が愛人と心中事件を起こし、自らの命を絶つたのですが、女性はその後息を吹き返して助かつたのであります。
妻帯者であつた熊切氏としては、不倫事件でありスキャンダルと申せませう。
その女性は回復後もマスコミの取材などは一切拒否し、表には出ませんでした。そのうちに世間から忘れ去られていつた事件であります。

若橋呉成氏は、この難攻不落の女性と接触することに成功します。ルポでは新藤七緒といふ仮名で登場しますが、彼女は熊切氏の秘書でした。若橋氏のインタヴューに対して、案外素直に証言しますが、いくつかは回答を拒否します。
一方若橋氏としては、実はこの事件は殺人ではないかといふ疑念を持ちます。新藤七緒は熊切氏殺害の刺客ではないか......
しかし関係人物への取材を重ねるうちにその思ひは揺らいでいきます。そして、殺人説を否定する決定的な証拠まで突き付けられてしまふのです。
そして若橋氏は新藤七緒への取材が度重なるうちに、心に変化が現れてくるのであります。心中事件の真相を明らかにするといふ目的だつたのが、次第にをかしくなつてきます。更にルポ形式での記述は途中で終り、日記体の記述になつてくるのです......

流石にテレビ畑で名を成した人だけに、一読して映像が浮かぶやうな文章であります。あつといふ間に読了します。一応ミステリと言はれてゐますが、ホラアの要素もあります。いささかグロな展開にもなりますが、それは必要であつたのか。終盤になると、何となく結末が分つてくるのですが、それを裏切りたい著者の想ひがさうさせたのか。結末については、異論もありさうです。実際酷評する人も多い。
しかし読者サアヴィスを意識した作りは好感を持ちます。電車内の移動中とかに読むには格好の一冊でせう。
デハデハ。今日の日はさやうなら。

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読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 日本の作家
感想投稿日 : 2018年3月18日
読了日 : 2018年3月18日
本棚登録日 : 2018年3月18日

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