単行本はぶんか社から1巻のみ刊行され、完結巻である2巻は電子貸本でしか読めなかったといういわくつきの作品。それを『ママゴト』の版元であるエンターブレインが、全1巻(つまり2巻分の厚さ)のコミックスとして刊行し直したもの。「(全)」と銘打たれているのはそうした事情による。
『ママゴト』や『赤い文化住宅の初子』とは違い、こちらはファンタジーである。
自分が恋した美少女・相羽奈美をストーカーから救おうとして交通事故死した主人公の少年が、犬に生まれ変わって奈美に飼われる物語。ただし、人間だったころの記憶と意識は犬になっても残っている、という設定だ。
松田洋子のことだから、通りいっぺんのキレイゴト・ファンタジーにするはずもない。短編連作形式で進む物語には、毎回人間の暗部を凝縮したようなドス黒いキャラが登場するし、ブラックなユーモアもちりばめられている。
それでいて、ときどき胸をしめつけられるような切ない場面が登場する。つまり、ファンタジーではあってもいつもの松田洋子ワールドなのである。これは傑作。
読書状況:読み終わった
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マンガ/ま行の作者
- 感想投稿日 : 2018年10月21日
- 読了日 : 2012年12月10日
- 本棚登録日 : 2018年10月21日
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