橋の上の「殺意」 <畠山鈴香はどう裁かれたか> (講談社文庫)

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レビュー : 10
著者 :
前原政之さん 殺人(ノンフィクション)   読み終わった 

 ベテラン・ルポライターが、2年半におよぶ取材をふまえて書き下ろした、畠山鈴香事件(秋田連続児童殺害事件)のルポルタージュ。中心となるのは、さる5月に鈴香の無期懲役が確定した裁判の記録である。

 この事件については週刊誌・夕刊紙等がずいぶんいいかげんな記事を書き飛ばしており、根拠のないデマの数々――鈴香が男を家に連れ込んでは売春していたとか、被害男児の父親と不倫していたとか、彩香ちゃんを虐待していたとか――が、事実であるかのように一人歩きしている。
 さすがに本書は、そうしたスキャンダリズムとは無縁の真摯な内容となっている。むしろ、この事件の報道に対する批判の書にもなっているのだ。

 著者は死刑反対の姿勢を旗幟鮮明にしており、本書も一貫してその立場から書かれている。そのため、裁判についての記述では偏向が目に余る部分もある。
 著者の目から見ると、死刑を求めていた検察側はつねに“悪しき国家権力”であり、彼らが法廷でなす主張は「舌なめずりするように」などというネガティヴな形容詞つきで描写される。このへん、ちょっとあからさますぎやしないか。

 また、著者が鈴香に対して終始同情的でありすぎる点も気になる。
 たしかに、彼女は病んだ心をもつ「哀れな加害者」(著者の形容)であり、その生い立ちを見れば同情の余地も山ほどあるのだが(父親から虐待を受けていたり、少女期に学校で激しいいじめを経験していたり)……。

 もっとも、世論の大勢が鈴香糾弾に傾いたなかにあっては、このような本が1冊くらいあったほうがバランス上好ましい、ともいえる。

 不可解なこの事件だが、本書を読んでもその不可解さは払拭されない。
 ただ、鈴香の精神鑑定に当たった精神科医の一人・西脇医師による解釈は、私にとって「なるほど」と腑に落ちるものだった。

 西脇医師は、最初の彩香ちゃん殺害(鈴香は殺意を否定)は人生に絶望した鈴香による「無理心中未遂」であり、豪憲くん殺害は「混沌とした心理状態で、あの世(死後)の彩香ちゃんの遊び相手として豪憲くんをあの世に送り込んだ」ものだと解釈している。
 もっとも、著者は西脇鑑定を評価しつつも、「(動機を解釈した)結論部分については疑問を感じている」としているのだが……。

 ともあれ、著者によるバイアスが少し気になる以外は、読みごたえあるルポルタージュだ。

レビュー投稿日
2019年3月29日
読了日
2009年8月26日
本棚登録日
2019年3月29日
2
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