イスラーム世界の論じ方

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著者 :
前原政之さん 政治   読み終わった 

 2004年から08年にかけて、著者が新聞・雑誌・叢書などに寄せた、イスラーム世界をめぐる論文・時評集である。

 各編が書かれたのは、イラク戦争以来の激動が続き、イラク日本人人質事件(04年)など、イスラーム世界をめぐる事件が日本でもメディアを騒がせた時期。その喧噪の只中にあって、研究者として状況を冷静に見据えた言論活動の記録なのだ。

 「9・11」同時多発テロ(01年)以後も、日本にはイスラーム教徒への極端な偏見は生じていない。しかし、イスラーム世界をめぐる日本の言論には、それとは逆方向の強いバイアスが存在すると、著者は指摘する。

 たとえば、「イスラーム教の名のもとに自爆テロをはじめとした軍事行動を正当化する集団を、『宗教の誤った理解に基づく』とする議論が日本では多い」が、イスラーム教は「預言者自身が武器をとって戦った輝かしい歴史を称揚しているため、軍事は忌避されない」と、著者は言う。

 イスラーム教とテロリズムを同一視するのが偏見であるように、イスラーム教の本質から目を背け、我々のイメージする平和的宗教の鋳型に無理やりはめることもまた偏見である。だが、日本においては後者のバイアスがかかった言論が幅をきかせている。著者は本書の随所でその歪みを正したうえで、歪みの根底に潜むものを、次のように喝破する。

《抑えられてきた反米感情、西欧コンプレックスを「イスラーム」に託して解放するという役割を、日本の言説空間の中の「イスラーム」論は担ってしまっている。》

 著者は、バイアスを排したイスラーム世界の全体像を提示し、そこから日本の言論状況をも逆照射する。イスラーム世界と日本。彼我の本質的相違をふまえたうえで、対立を避け共生を続ける方途を探った好著。

レビュー投稿日
2019年4月3日
読了日
2009年4月18日
本棚登録日
2019年4月3日
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