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 「14歳の世渡り術」シリーズの1冊で、各界の著名人26人が“自分の人生を変えた音楽(名曲または名盤)”について綴ったオムニバス・エッセイ集だ。

 「教科書には載らないけど、絶対にこれは聴いておけという音楽」が選定基準なのだそうで、企画がいいと思う。
 26人の執筆者の中には作曲家や演奏家もいるが、教科書的な無味乾燥には陥っておらず、思いっきり「自分語り」な内容になっている。

 内容は、玉石混交。箸にも棒にもかからない駄文もあれば、筆者の思いがほとばしる名文もある。

 このシリーズの主要対象読者は中・高生なのだろうが、どの筆者もことさら言葉を平易にしたりはしていない。そこが好ましいし、だからこそ大人が読んでも面白い本になっている。
 だいたい、10代中盤というのは全身全霊を傾けて大人ぶりたい年頃なのだから、ヘンに子供扱いする書き方をされたら反発するに違いないのだ。

 26編のうち、私がとくに気に入った文章を挙げておく。

 山田ズーニー「骨になれ、音に身投げしろ!」
 ――若いうちはどんどんライヴに行け。ライヴでアーティストに対して自分をさらけ出せ、とアジる熱い文章。

 町田康「音と意味の合一」
 ――パンクロッカーでもあった町田が、河内音頭系歌謡曲にみなぎるパンク性を称揚している。「河内十人斬り」事件を題材にした町田の代表作『告白』が、幼少期から聴いて血肉化した河内音頭から生まれたことがわかる。

 高嶋ちさ子「自分の道を歩く」
 ――人気ヴァイオリニストの高嶋は文章もうまい。子どものころ女だてらにガキ大将であった彼女が、ヴァイオリンを習い始めたころにガキ大将仲間に言われたという言葉(「お前、ジャイアンのくせにしずかちゃんみたいなことやってんじゃねーよ」)がサイコー。

 浦沢直樹「膝を抱えて25分間聴く音楽」
 ――当代きっての人気マンガ家が挙げる「人生の1枚」は、マイク・オールドフィールドの『チューブラー・ベルズ』。セレクトの意外性もさることながら、次の一節にシビレた。

《「この音楽、俺のストライクですよ」みたいな言葉をよく聞く。でもそのストライクゾーンって、真ん中にミットを構えてそこに入ってきた球を取っているだけではないのか。音楽にかぎらず、小説、映画、漫画すべてに言えることだが、悪球を全力で取りにいくことである日その悪球すら自分のストライクにした時、初めてその面白さに気づくというもの。》

 池谷裕二「あまりに美しいドビュッシーの透明な和音」
 ――脳科学者の池谷さんは、音楽(クラシック)にもたいへん造詣が深い。音楽についての文章だけを集めたエッセイ集を出したらよいと思う。

 ちなみに、私自身が「人生を変えた1枚」を挙げるとしたら、ストラングラーズの『ブラック・アンド・ホワイト』かなあ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 音楽本
感想投稿日 : 2018年10月17日
読了日 : 2013年8月10日
本棚登録日 : 2018年10月17日

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