夜露死苦現代詩 (ちくま文庫)

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本棚登録 : 315
レビュー : 29
著者 :
前原政之さん 詩集・詩論   読み終わった 

 村上春樹の『雑文集』に本書の書評というか紹介文が載っており、それを読んで興味を抱いて手を伸ばしてみた。意外といってはなんだが、村上春樹と都築響一は仲がよいのだそうだ。

 文芸誌『新潮』に連載されたものだそうだが、タイトルからも著者からも、普通の現代詩論ではないことはすぐにわかる。まずは版元がつけた内容紹介文からコピペ。

《詩は死んでなんかいない。ストリートという生きた時間が流れる場所で、詩人とは一生呼ばれない人たちが、現代詩だなんてまわりも本人も思ってもいないまま、言葉の直球勝負を挑んでくる…寝たきり老人の独語、死刑囚の俳句、エロサイトのコピー、暴走族の特攻服、エミネムから相田みつをまで。》

 国語の教科書にはけっして載らない「詩」、現代詩の賞にはけっして選ばれない「詩」、しかし著者の心にはまぎれもない文学作品として迫った「詩」の数々を、著者は採集し、論じ、称揚する。

 集められた「詩」の中には、痴呆の老人や統合失調症の患者などが紡いだ、「アウトサイダー・アート」の範疇に収まるものもある。また、母子餓死事件の母親がノートに綴った日記の一節のような、“巧まざる詩”もある。かと思えば、玉置宏が歌謡番組で曲のイントロに乗せて語りつづけた“前振り”の言葉に、「分速360字のトーキング・ポエトリー」を見たりする。
 それらはみな、「書くほうも、読むほうも『文学』だなんて思いもしないまま、文学が本来果たすべき役割を、黙って引き受けているもの」(あとがき)なのだ。

 たとえば著者は、暴走族の特攻服に金糸銀糸で刺繍される「詩」の数々を、次のように称揚する。

《この世の中に「詩人」と呼ばれ、みずから呼ぶ人間がどれくらいいるのか、僕は知らない。けれど、その職業詩人たちのうちで、自分の会心の作を上着に刺繍して、それを羽織って町を歩けるやつがいるだろうか。自慢の一行を背中にしょって、命のやりとりにでかけられるやつがいるだろうか。》

 一見おちゃらけた本のように見えて(じっさい、笑いを誘うくだりも多い)、じつはすこぶる熱く、挑発的な一冊。そもそも詩とは何か、現代詩が本来果たすべき「役割」とは何かという問いかけが、本書をつらぬく通奏低音だ。著者はその問いを、“異形の詩”の数々を提示することを通じて、現代詩の側に投げかけている。

 企画がよいし、一冊の本としてよくできている一冊。

レビュー投稿日
2018年11月6日
読了日
2011年5月25日
本棚登録日
2018年11月6日
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