「初の随筆。」(帯の惹句の一節)なのだが、正直、エッセイ集という感じはしなかった。
随筆/エッセイという言葉から思い浮かぶ、〝日々のよしなしごとや季節のうつろいなどを、ゆったりとした筆で綴る文芸〟というイメージから遠く隔たっているからだ。
むしろ、「私小説」もしくは「震災ノンフィクション」だと言われたほうが、まだ得心がいくかもしれない。
赤松作品『ボダ子』『女童(めのわらわ)』に小説仕立てで描かれたことの多くが、本書には事実として登場する。
さらにいえば、やはり東北の被災地を舞台にしたデビュー作『藻屑蟹』のベースとなった実体験が綴られている。
『ボダ子』『女童』『藻屑蟹』を読まずにいきなり本書を読む人は少ないような気がするが、かりにそういう読者がいたとしたら、本書の内容がよく理解できないかもしれない。
そう思うほど、上記3作品――とくに『ボダ子』と密接につながっている一冊だ。
石巻・南相馬・福島と、3・11後の被災地で土木作業員・除染作業員として暮らした経験が、切々と綴られていく。文章は一見静謐なようでいて、その底に情念のたぎりを感じさせる。
インテリの著者が土木作業員たちのDQNな世界に放り込まれ、異質な彼らから陰湿ないじめを受けつづけるあたりの描写は、読んでいて胸苦しくなるほど苛烈だ。
「おバカさんの内面を嘘くさくなく描くのは、知的な人を描くよりずっと難しい」と言ったのは斎藤美奈子だが、本書のDQN描写も強烈なリアリティがすごい。
また、被災地で一攫千金を狙うあやしげな男たちの群像が、大変面白い。
東日本大震災関連本は私もかなりの数を読んだが、こんな角度から被災地の現実を暴き出したエッセイ集やノンフィクションはなかった。
- 感想投稿日 : 2020年3月5日
- 読了日 : 2020年3月5日
- 本棚登録日 : 2020年3月5日
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