コンピュータが仕事を奪う

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本棚登録 : 674
レビュー : 104
著者 :
前原政之さん AI(人工知能)   読み終わった 

 帯には、「ホワイトカラーの半数が消える!」と大書されている。この惹句と書名だけを見ると、「コンピュータにはできない独創的な仕事をするスキルがない奴は、早晩失業するぞ。だから、いまのうちに○○のスキルを身につけろ」と煽り立てるような、よくあるビジネス書に見えてしまうだろう。

 しかしこれは、そんな薄っぺらい内容ではない。
 たしかに、コンピュータが人間の仕事を奪うことに警鐘を鳴らす記述はあるし、「今後、どのようなスキルを身につければコンピュータに仕事を奪われずにすむか?」も示唆されてはいる。その意味で広義のビジネス書ではあるのだが、それは本書の魅力のほんの一面でしかないのだ。

 本書は、“そもそもコンピュータとは何か?”を本質次元から解説した一級の科学啓蒙書であり、コンピュータを基礎づける数学がどのように文明を進歩させてきたかをたどった数学史の概説書でもある。そしてまた、これからコンピュータと数学がどのように世界を変えていくかを展望した未来予測の書でもある。さらに、これからの数学教育はどうあるべきかを提言した教育論でさえある。

 数学の本でもあるという性格上、数式も少し出てくるのだが、私のような数学オンチにも難なく読みこなせる。正直に言えば数式の中にはちんぷんかんぷんなものもあったが、読み飛ばしても著者(国立情報学研究所教授・社会共有知研究センター長)の主張を理解するのに支障はないのだ。

 面白いエピソードや雑学をちりばめ、巧みなたとえ話も自在に用いて、著者は本書を数学オンチにさえ楽しめるものにしている。本書の内容は、理系の人には「何をいまさら」な話がほとんどなのかもしれないが、文系人間の私には目からウロコが落ちまくるものだった。そして、本書を読んで初めて「ああ、そういうことか」と得心のいった話が山ほどあった。

 たとえば、第1章の冒頭で、著者はIBM社のコンピュータ「ディープ・ブルー」がチェスの世界チャンピオンを打ち破った事件(1997)を、コンピュータ史の大画期として取り上げる。そして、この事件の意味を解説することを通して、コンピュータに人間の真似をさせるための手順が平易に説明され、コンピュータは何が得意で何が苦手なのかも読者に理解させてしまう。見事な導入部である。

 その後も蒙を啓かれる記述の連続で、最初から最後まで知的興奮に満ちている。理系の人よりも、むしろ私のような数学嫌いこそ読むべき本だと思う。数学についてのイメージが覆ること請け合いである。「もっとしっかり数学を勉強しておくんだった」と、私はしみじみ後悔した。 

レビュー投稿日
2018年11月11日
読了日
2011年3月23日
本棚登録日
2018年11月11日
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