生きながら十代に葬られ

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レビュー : 2
著者 :
前原政之さん エッセイ&コラム一般   読み終わった 

小林エリコの3冊目のエッセイ集。

今回はタイトルのとおり、10代のころの思い出が中心になっている。

(おそらくは発達障害がおもな要因となって)イジメに遭い、学校で孤立し、家庭も崩壊状態で、やがて精神を病み……という、どこにも居場所がない暗闇のような10代の日々が、哀切なタッチで綴られる。

しかし、その哀切さの中にどこか飄々としたユーモアもあり、「読み物」としてとても面白い。

「メンヘラもの」のエッセイやコミックエッセイはいまや巷にあふれているし、著者同様のつらい10代を過ごした人も山のようにいるだろう。
が、そのつらい日々をただ垂れ流すように列挙してエッセイやマンガにしたところで、読者は「さぞおつらかったでしょうね」と思うのみで、面白くもなんともない。

それに対して、小林エリコのエッセイには自己を対象化する醒めた客観性があるし、自身の体験を「読ませるエッセイ」に仕上げる文才がある。
私は彼女の著書を読むのはこれで3冊目だが、3冊とも「巻を措く能わず」で一気読みさせるパワーがある。

印象的なタイトルは、ジャニス・ジョプリンの遺作『パール』所収曲「生きながらブルースに葬られ(Buried Alive In The Blues)」のもじりである。

が、たんなる「もじり」にはとどまらない。
というのも、10代のころの著者はジャニスの孤独な生涯と、孤独を放電するような歌声に惹かれ、深く心酔(著者は「信仰」と表現)していたからだ。
ジャニスの歌はたんなるBGMではなく、著者の10代を象徴するテーマソングのようなものだったのである。

そして、終盤の短い「第2部」では、20代以降、彼女のことを受け入れてくれる友人や恋人にも出会い、10代のころには想像もしなかった幸せを感じた日々について綴られる。

つまり、『生きながら十代に葬られ』という一見ネガティブなタイトルには、自らの10代をきちんと〝葬り〟、新たな人生に向き合おうとするポジティブな決意も込められているのだ。
ジャニスの「生きながらブルースに葬られ」が、タイトルとは裏腹に明るいアップテンポの曲調(ヴォーカル録りの前夜にジャニスが急逝したため、この曲はインストゥルメンタル)であるのと同じように……。

そういえば、メンヘラ・マンガの最高峰(だと私は思う)『アスペル・カノジョ』にも、主人公がカラオケでジャニスの「クライ・ベイビー」を熱唱するシーンがある。
小林エリコは『アスペル・カノジョ』を読んだだろうか?

茨城県の片田舎で過ごした10代のころには話の合う人が周囲に一人もいなかった著者が、上京して初めて話の合う友人に出会う……というくだりなど、大いに共感した。
私も栃木県の片田舎で10代を過ごし、同じような孤独を感じ、同じように東京で初めて話の合う人を見つけたから。

いま10代でイジメに遭ったり、深い孤独を感じていたりする人には、心の奥まで突き刺さる本だと思う。
そして、最後まで読めば心に一筋の光が射し込む本でもあるだろう。

レビュー投稿日
2019年12月15日
読了日
2019年12月15日
本棚登録日
2019年12月15日
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