立川シネマシティで『ダークナイト』を観た。
私はアメコミにまったく興味がないし、バットマン・シリーズもティム・バートンが監督した第一作しか観ていない。しかし、この 『ダークナイト』、私のウェブ巡回先の目利きの方々がこぞって絶賛(粉川哲夫氏、竹熊健太郎氏、「超映画批評」の前田有一氏など)しているので、「これは観ておかないと……」と思ったのだった。
評判どおりの傑作。アメコミを題材にして、ここまでダークでシリアスな映画が生まれるとは思わなかった。最初から最後まで重々しい緊張感が張りつめ、それでいて娯楽アクション映画としても一級品に仕上がっている。
ジョーカー役のヒース・レジャーが公開前に急死したためか、テレビ等の宣伝ではジョーカーにウエイトが置かれており、まるでジョーカーが主人公のように思える。
しかし、実際に観てみればそんなことはなく、バットマンとジョーカーは同等の重みをもって映画の中でせめぎ合っている。ダークな味わいではあるものの、単純に「ヒーローもの」として観ても、バットマンのカッコよさは十分堪能できる作品だ。
ジョーカーは、金銭にすら興味がなく、ただ悪のための悪を行いつづける、いわぱ「ピュアな悪」「全き悪」として造型されている。
自らの保身など微塵も考えない、型破りな悪の権化・ジョーカー。彼はバットマンや副主人公ともいうべき検事ハービー・デントに、「お前たちが拠って立つ正義は、ほんとうに正義なのか?」と問いつめるような挑発を次々と仕掛ける。その挑発に、バットマンの正義は大きく揺らぐ。その揺らぎようがドラマの駆動力となる映画だ。
粉川哲夫氏は本作のレビューで「善悪の問題をこれほど深くあつかった映画作品はいままでなかったと言えるほどの傑作だ」と書いていたが、同感である。この『ダークナイト』と比較して論ずるべきは、過去のバットマン・シリーズより、むしろ我が国が誇る名作マンガ『デビルマン』(永井豪)だろう。
映像もものすごい。闇に沈むゴッサムシティにバットマンがビルの上から舞い降りるそのワンカットだけでも、もううっとりするほど美しい。
そして、ジョーカーとバットマンの闘いのなかでビルや車が次々破壊されていくプロセス自体、えもいわれぬ悲壮美に満ち、しかも苦いカタルシスがある。随所にちりばめられた、街の闇を切り裂く炎と爆発――その「破滅の美」を味わうためだけにでも、映画館に足を運ぶ価値がある。
- 感想投稿日 : 2022年12月24日
- 読了日 : 2008年8月24日
- 本棚登録日 : 2022年12月24日
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