SINGLE TASK 一点集中術――「シングルタスクの原則」ですべての成果が最大になる

  • ダイヤモンド社 (2017年8月30日発売)
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「マルチタスク」がもてはやされる風潮に意を唱え、つねに「シングルタスク」を徹底することこそ、じつは最も効率的で生産性が高いのだと主張する本。

著者の主張は、脳科学や心理学など多くの研究成果に裏打ちされている。たとえば――。

《マサチューセッツ工科大学のアール・ミラー博士はこう述べている。「なにかをしているときに、べつのこと(タスク) に集中することはできない。なぜなら2つのタスクのあいだで『干渉』が生じるからだ。人にはマルチタスクをこなすことなどできない。『できる』という人がいるとしたら、それはたんなる勘違いだ。脳は勘違いするのが得意である」
 手みじかにいえば、マルチタスクは不可能であり、 一般に「マルチタスク」と考えられている行為は「タスク・スイッチング」にすぎない。 タスクからタスクへとせわしなく、注意を向ける先を無益に変えているだけだ。タスクの切り替えには0・1秒もかからないため、当人はその遅れに気づかない》

その「タスク・スイッチング」のくり返しが脳や心に負荷をかけ、集中力を損ない、生産性や効率を下げる……ということを、著者はさまざまな角度から解説していく。

マルチタスクが推奨され、常態となっているのは、ネットやスマホなどテクノロジーの発達ゆえでもある。
私たちは家でも外出先でも仕事を継続できるようになり、いくつもの作業・調べ物・娯楽を同時進行できるようになった。
昔に比べて格段に便利になったわけだが、反面、常にマルチタスクを強いられるようになり、〝一つのことに集中する力〟は大幅に毀損された。

だからこそ、私たちは一点に集中するシングルタスク能力を取り戻さないといけない――というのが著者の主張である。

本書の参考文献にも挙げられている、ニコラス・G・カーの『ネット・バカ』に通ずる本だと思った。

『ネット・バカ』は、下品な邦題のせいで損をしているが、まっとうで示唆に富む好著である。
同書は、ネットの普及によって我々の思考能力がいかに深刻なダメージを受けているかを明らかにする内容。ネット・サーフィンに類する行為を日常化すると、「スイッチング・コスト(切り替えコスト)」と呼ばれる負荷が脳にかかり、集中力や深い思索をする能力が損なわれる、というのだ。

同様に、我々が日々強いられている「タスク・スイッチング」も、脳と心に大きな負荷をかける。つまり、2つの本は同じ現象を別の側面から述べているとも言える。

本書は、第一義的にはシングルタスク化の徹底による仕事の効率化を目指すビジネス書である。
だが、それだけにとどまらない。

我々は一つのことに集中して取り組むからこそ、チクセントミハイの言う「フロー」状態に達して、充実感・幸福感を味わうことができる。
逆に言えば、マルチタスクが常態化しているかぎり、真の充実・幸福を味わうことができない……と著者は言うのであり、本書は一種の幸福論でもあるのだ。

本書に「マインドフルネス」という言葉は出てこないが、著者の主張は「いま・ここ」に心を集中せよと説くマインドフルネスと相通ずる。

穿った見方をすれば、本書は発達障害の人たちに希望を与える内容かもしれない。
発達障害の人の多くは一つのことに集中しやすく、マルチタスクが苦手であり、それが往々にして欠点と見做されがちだからだ。

ともあれ、たんなる「タスク管理術」には終わらない深みを持った良書である。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 知的生産の技術
感想投稿日 : 2020年6月24日
読了日 : 2020年6月24日
本棚登録日 : 2020年6月24日

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