地獄変・偸盗 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1968年11月19日発売)
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本棚登録 : 2916
感想 : 215
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新潮文庫の芥川龍之介短編集その2。『偸盗』『地獄変』『竜』『往生絵巻』『藪の中』『六の宮の姫君』の6編を収録。
その1の『羅生門・鼻』と併せて王朝もの(平安時代の古典を新解釈したもの)と呼ばれているそうで、2冊連続で読んだ。

……というか、新型コロナウィルスのせいで3月から図書館が休館とのことで、その前に慌てて数冊借りた次第です。『羅生門・鼻』の方は元々所持していたもの。ここ数年はあまり読書する気にならず、最近せっかく読書熱が上がってきたのにそのタイミングでこんなことに……泣。


最初の『偸盗』は盗賊団の話。芥川本人も不出来だと言ってるそうで、あまり面白くなかった。ただ時代劇、アクション映画的な描写があるのはけっこう良かった。最後の方で「生と死」が対照的に描かれる。

この短編集全体で200頁ほど、その内の半分の100頁が『偸盗』で、1/4の50頁が『地獄変』。残りの50頁で4編!芥川龍之介、やっぱり長いのを書くのは苦手なのかな。短編の方が切れ味あって良い気がします。

この中で一番良かったのは次の『地獄変』!とにかく描写、そして芸術家の狂気を描いたホラー。

『地獄変』とは真逆で対照的なのがラストの『六の宮の姫君』。前者は絵師の狂気、のめりこんでる人の話だけど後者は「何にも情熱を傾けない人」の話。こちらもなかなか面白かったです。
解説を読むと原典がすでに面白くて、芥川本人の創作した部位は少ないんだそうな。解説がついているとこういうのを知れるのが良い点なので、私は青空文庫などの単品ではなく、なるべく本という形で読んでます。

『竜』は『鼻』とリンクしているのが面白い。古典を元にしているけど、不条理で不確か、ゆらぎのある「人間」を描いているのが芥川龍之介のよさだと思う。

『往生絵巻』は実験的な作品。戯曲、お芝居っぽい。動物の鳴き声がセリフとしてあるのがユーモラスでかわいい。手塚治虫先生の短編での実験的作品を思い出す。こちらも『地獄変』と近いテーマの話。

続く『藪の中』も同じく。黒澤さんの『羅生門』の原作はこれで、かなり原作どおりだったのかと驚いた。それと、『羅生門』とマッシュアップしてるのが上手い!橋本忍さんの功績。
こちらは映画同様ミステリ小説。全員が「私が犯人です」という話なので、ミステリの形式を崩していて、だから人間ドラマになる。これも他の話同様、見栄や体面を気にするリアルな人間たちの話。


話は最初に戻って、コロナウィルスで学校も休校、図書館も休館と、本が好きな小中高生のことを考えるとかわいそうになる。ただこの機会にぜひ読書して欲しいなと願っています。自分がたまたま読書熱が上がってきたのが大きい理由のひとつだけど、私のレビューは常に高校生ぐらいを相手に想定して書いているので、そう思わされます。
(その相手とは、私の心の中のあまり本を読んでなかった高校生の頃の自分。本を読まない男子高校生が、どうやったらその本に興味を持ってくれるか、ということです。)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2020年4月7日
読了日 : 2020年3月11日
本棚登録日 : 2020年3月6日

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