ナイン・ストーリーズ (新潮文庫)

3.65
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本棚登録 : 5076
レビュー : 519
制作 : 野崎 孝 
GMNTさん 小説   読み終わった 

全体としては先に読んだ『ライ麦畑でつかまえて』の方が好きなのですが、
その理由は長編と短編の違いと、「君」に向けて書かれた文章か
普通の小説の文体かどうか、人称の違いなのかなあという気がします。

長編『ライ麦畑』の場合、いちど作品世界に入っていけたら
後はすらすらと読めましたが、『ナイン・ストーリーズ』の場合は
各登場人物・人間関係の把握に時間がかかり、
のめり込めたかと思うと後半で、すぐ終わってしまう。
二回目の方が面白いのかもしれません。

把握するのに時間がかかるので、こちらの方が読み難かった。
読み終わるまですごく時間がかかりました。
短編だと、一日一本のつもりで読むのですが、話の途中で諦めて
次の日に持ち越すことも多く・・・そのせいで『愛らしき口もと目は緑』は
ちゃんと読解できていませんでした。残念。
序盤の「深い青」=海の貝殻みたいな目=緑じゃない という描写を
見逃してしまうと、これは意味がさっぱりわかりませんね。

そんなわけで全体としては★4ぐらいだけど、
『エズミに捧ぐ』が突出して大好き・・・これだけ10回は読み返したいぐらい。
前半後半等、違う話を合体させているパターンも、この短編集ではかなり多いです。
『笑い男』もそうだし、『テディ』なんかも。
『エズミに捧ぐ』も、前半と後半・・・参戦前後で違う話。構成がすごい。

『バナナフィッシュにうってつけの日』はシーモアの話ですが
『僕は狂ってる』の後の、『ライ麦畑』の原型のような感じ。
『ナイン・ストーリーズ』全体を通して戦争後遺症、PTSDが影を落としてる。
PTSDと、サリンジャーは無垢なものに対する憧れ云々と言われますが
早い話が重度のロリコン・ショタコンなんじゃないかと・・・。
あまりに純粋なロリコンですよね。
そこの部分の描写があまりにも巧みすぎます。
なにかを描写するのに、直接的ではなくて
周りから細かく描写している。周囲の雰囲気込みで。そしてその観察眼の鋭さ。
だから、読むのに時間がかかるのかもしれません。

『笑い男』はそのまま『ダークナイト』の世界観、
ジョーカーや乱歩の『黄金仮面』のようなイメージ。

『ド・ドーミエ=スミスの青の時代』も、地味に好きです。
何かの芸術作品を介在させて、女性に惹かれていく。
まあそれは文章でも絵でもなんでもよくて、その人のセンス。
これ、すごくよくわかりますよ。魂の部分で惹かれるところが。
勝手に妄想するとこは青くさいんだけど(笑)。

『テディ』で終わるんですけど、また『バナナフィッシュ』に還ってくる、
アルバムの最後の曲が終わると、また一曲目に戻ってくる
そんな印象を受けました。
とにかく『エズミに捧ぐ』が大好き。★100個。


「あなたもわたしをひどく冷たい女だとお思いになって?」

レビュー投稿日
2013年9月29日
読了日
2013年9月29日
本棚登録日
2012年9月28日
2
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『ナイン・ストーリーズ (新潮文庫)』のレビューへのコメント

kwosaさん (2013年10月1日)

ああ、GMNTさん!

また『ナイン・ストーリーズ』が読みたくなりましたよ。
僕は『エズミに捧ぐ』が強烈に好きだったということは覚えているくせに、内容はすっかり忘れているんですよ。
でも、ものすごく良かったってことだけ覚えているんです。なんなんでしょうね。

サリンジャーは、これと『ライ麦畑』しか読んでいないんですが、『ナイン・ストーリーズ』は折に触れ読み返しますね(そのくせすぐ忘れるんですが)。

柴田元幸の新訳も買ったのですが、これに関しては野崎訳が好きなようです。
『バナナフィッシュにうってつけの日』は柴田訳では『バナナフィッシュ日和』になっていて。
でも「うってつけの日」ってのがいいんですよね。
GMNTさんがどこかのコメント欄に書いていらした『ライ麦畑でつかまえて』の「つかまえて」感みたいなものですかね。

『バナナフィッシュにうってつけの日』の、死に至るまでの不条理感(けっして不条理ではないのですが)が心を締めつけ、油断すると涙がこぼれそうになります。

よく推理物のドラマなんかで、自殺に見せかけた殺人事件というシチュエーションで、探偵役が「これから死のうとする人間がビデオの録画予約をするでしょうか」みたいなセリフがでてきますが、そういうことあるとおもうんですよね(ミステリなので推理のとっかかりとしては問題ないのですが)。

慢性的に死に思いを馳せていて、そのギリギリのラインで毎日をなんとか生きている人。
毎日、それなりに楽しく生きているけれど、ビデオの録画予約をした後に死にたくなっちゃったとか。

サリンジャーの、特に『ナイン・ストーリーズ』は、そのギリギリのライン、人間の心の境界の不可解な部分を不可解なままにごろっと提示しているのが凄いと思います。
作品を媒介してサリンジャーからテレパシーを送られているような不思議な感覚です。

GMNTさん (2013年10月1日)

『エズミに捧ぐ』は、主人公(サリンジャーの分身)がWWII時に渡英して、諜報部隊かなんかの訓練を受けてるときに女の子(エズミ)と出会う話ですね。
エズミに書いてとせがまれた「愛と汚辱」についての小説が入れ子、メタ的構造になってて前半が愛、後半が汚辱=戦争終結直後のPTSDの話・・・と言ったら思い出されるんじゃないですかね?
『スローターハウス5』もそうでしたけど、結局こういうのが自分のツボなのかも。
『エズミ』は前半の描写や話してる内容も全部ツボなんですよね・・・。

『ナイン・ストーリーズ』に関しては、地の文が話し言葉じゃないので
野崎さんの訳でも全然古くささを感じませんでしたねー。
『バナナフィッシュ日和』だと『ギャグマンガ日和』とか、
あとなんとなく俵万智っぽくないですか?(笑)
『サラダ記念日』とか『チョコレート革命』とか・・・
カタカナ+漢字の組み合わせの。

「つかまえて」感、あそこに思惑や意思が篭ってる気がします。
野崎さんの単語選びは濃い気がするんで、やっぱりそこ含めてファンになってしまいますね。

>死に至るまでの不条理感
それはよくわかります。
というか・・・『ライ麦畑』のオチの解釈も有名なのでネタバレしてて、
新潮文庫の『ナイン・ストーリーズ』はカバーの裏表紙に「自殺」って思いっきりネタバレしててw
これひどいなあwwwww

『ライ麦畑』と『バナナフィッシュにうってつけの日』と『テディ』は
全部つながってますねー。
それぞれ形は違うんだけど、あとの2本は死が唐突に来ますから。

『ライ麦畑』よりも『ナイン・ストーリーズ』の方が
若い頃に読んだ方がいい本だな、って思いました。

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