決定版 私の田中角栄日記 (新潮文庫)

  • 新潮社 (2001年2月28日発売)
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感想 : 10
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 当初はロッキード事件=陰謀、という文脈から本作品を手にしたが、稀代の政治家の素顔を知るということで人となりの妙を純粋に楽しめた。

 現今の政治家とは時代が違うので仕方ないが、田中角栄氏の魅力が良く伝わってくる。
 終戦直後から角栄氏の死まで半世紀に渡り時を共にしてきたわけだから、作品全般に関してポジショントークになっていることは割り引いて考えねばなるまい。しかし、それでもなお、角栄氏の度量の広さ・日本を支えるという熱量の大きさ・面倒見の良さ等などが良く描けており、興味深く読むことができた。
 当然のことながら角栄氏も人間であり、緊張もすれば、疲れるときもある。そのような普段の様子も描かれていることが共感を呼び、作品に対しても角栄氏に対しても好感が持てると感じた。

 またこの本を読むことでマスコミについてもぼんやり考えた。
 金権政治と批判を浴び、ロッキード事件と相まって退陣を余儀なくされた田中角栄氏であるが、マスコミやジャーナリズムについては非常に恐怖感を覚える。あるときは持ち上げ、あるときは完膚なきまでに叩きのめす。角栄氏もその餌食でありロッキード事件の真相を一般ジャーナリズムは殆ど取り上げることはなかったのではないか。マスコミという生き物はテレビ局や新聞・出版社や無数のジャーナリストの集合体であり、新陳代謝を繰り返しながら反省や自省をすることなどなく、大衆を巻き込みながらワンサイドゲームを作っていくのではないか。

 またマスコミは、著者の佐藤氏について散々報道しておきながら起訴もされなかった事実(つまり法的に問題がない)とわかった時、謝罪はしたのだろうか。当然なかろう。謝罪をしたところで名誉回復などは形ばかりで、実生活で失うものが大きいことは想像して余りある。

 人間とは感情的動物であるが、マスコミが感情をもって民衆に訴えかける時、その流れを止めることは難しい。今やSNSで個人が情報を発信できる時代に、表現の自由ばかりでなく、良識や自重に関しても矜持をもってほしいと感じた。これは個人の発信であっても同様であろう。

 最後に。題名に日記という単語がある通り、本作は筆者の考えを伝えるというより資料的価値が高いものかと思います。昭和の政治史、外交史、ジャーナリズム等々を知りたい方にはおすすめできる作品かと思います。ロッキード事件については多くは語られていないので、そちらに興味がある方は石井一氏の作品をおすすめします。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ドキュメンタリ
感想投稿日 : 2021年6月2日
読了日 : 2020年6月9日
本棚登録日 : 2021年5月30日

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