完訳チャタレイ夫人の恋人 (新潮文庫)

  • 新潮社 (1996年11月22日発売)
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感想 : 70
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大学で軽音楽サークルに入りました。「オヤジ君は、そうだな、むっつりスケベでしょ?」先輩にこう言われて即座に否定しました。普通にスケベであると自任していたから。

その点、本作『チャタレイ夫人の恋人』も謂わばむっつりじゃないスケベ、おっぴろげエロです。むしろどぎついかもしれない。

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チャタレイ夫人ことコンスタンスは中流ながら自由な空気の下で教育と経験を積み、貴族であるクリフォード卿と結婚する。しかしクリフォード卿は第一次大戦で下半身が不具となり、いなかの炭鉱町テヴァーシャーの屋敷に夫人と引っ込み隠遁的生活を送る。クリフォードはいくつかの文芸作品で名声を得つつあるなか、コンスタンスは閉じこもった田舎生活・貴族仲間の辛気臭い高尚な議論に飽き飽きし、果ては森番メラーズと不義の愛を交わし、その関係にはまっていく。

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つまり本作はありていに言えば不倫モノであるが、描写が非常に生々しく肉感的。一番印象的だったのは愛し合う二人が互いの陰部を『ジョン・トマス』『ジェイン夫人』と呼ぶところでしょうか。しばしば陰部とは抑制や理性の網の外になりますが別人格として呼ぶところにエロチシズムを感じます。


とはいえ、これがただのエロ・グロ・ナンセンスかといえば、そればかりではなく、他の切り口があると考えます。それは例えば、人間らしさとは何かとか、自然の重要性とは何かとか、肉体の不自由はどのように克服するか(むしろしなくても良いのか)等々です。

主人公のコンスタンスは鬱屈した生活の果てに、肉体の満足こそ善でありすべてと言わんばかりに自らの愛の道を突っ走ります。他方で不倫浮気は社会通念上も法律的にも許されないこととされており、そのルールには必ず背景があるわけです。社会と個人との関係、社会にあっての倫理、こうしたトピックを考える上ではよいマテリアルかと思いました。

コンスタンスのように夢中になるときは忠告も悪口に聞こえますし、見境もなくなります。そういう状態は理解できるものの、もう破滅に向かっていることがわかり、助けてあげたいけど助けられないもどかしさを感じました。

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巻末の解説を読み、筆者ローレンス自身が人妻と不倫して、いわば駆け落ち然の海外滞在を余儀なくされたことを知りました。その点で本作は私小説的作品といえます。ノマド的生活の中で一生を終えた彼が、それでも愛が勝つ、と30年前に流行った曲のように主張したかったかはわかりませんが、作品の終わりはいまだ一緒になれない二人の間の近況文通で終わります。その印象は二人の行く末が明るくないことを示しているようにも見えますし、あるいは『社会』に自分たちの生活を踏みにじられたローレンスのルサンチマンのようにも思えました。いずれにせよ、社会に反して生きるというのは楽ではない、そのことは実感しました。

皆さんはどう読まれますでしょうか。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 歴史・文化
感想投稿日 : 2022年6月3日
読了日 : 2022年6月1日
本棚登録日 : 2022年6月3日

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