貝に続く場所にて

著者 :
  • 講談社 (2021年7月9日発売)
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本棚登録 : 36
感想 : 7
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記憶は水に垂らした1滴のインクの様に時間と共に薄れてしまう。しかし無くなる事はない。インク溶液となった水が純水に戻らないのと同じように身体の奥深くに残り続ける。光に透かした時に水に色がついていると判るように、何かの拍子に気が付く。それが歓喜を伴うものでも、どうしようもない哀しみを伴うものでも…。いつかは向き合わなければならない自分自身の一部なのだ。しかし、生死が曖昧だからこそ向き合えない。この物語は震災の記憶。失われたものと、残された者の折り合いの付け方を美しく精細な文章で綴っている。終盤の惑星のモニュメントを巡る遠足の記述は、もう素晴らしいとしか言いようがない。時間の遠近が崩れてゆく中、蜃気楼のように時を超えて目の前に現れる情景の描写は脳の奥に刻み込まれるようだ。溢れる様な美しい文章や浸みてくる言い回しは、この作家さんの奥の深さが窺えるようである。本当に素晴らしい読書体験が出来ました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2021年7月19日
読了日 : 2021年7月19日
本棚登録日 : 2021年7月19日

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