f植物園の巣穴 (朝日文庫)

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本棚登録 : 1208
レビュー : 147
著者 :
greenflashさん  未設定  読み終わった 

読み始めてみて これほどに難航するとは
思わなかった。200ページあまりの作品に
かなりの時間を費やしてしまった。

佐田豊彦の
封印していた過去の記憶に再会して子供時代から
もう一度生き直すような時間を過ごす経験が
父を亡くした昨春頃から始まっていた私の内面の
化学変化に酷似しており 時折立ち止まっては
自身の記憶を確かめずにはいられなくなったから
である。

豊彦の迷い込んだ世界は 面妖かもしれないが
彼の魂を救った。

私のたどった迷い道も どうしても思い出したく
なくてなかったことにしてしまっていたらしい
傲慢で利己的な性情を養った子供の頃を私に蘇らせ
私の人間性の問題を自覚させられるものだった。

「相手が自分を尊ばないと言って腹を立てるのは
まちがっている。尊ばれない己が身を省みるべき
なのであった。相手が自分に礼を尽くさない、
目下の目上に対する礼を失している、となじる
のは、それだけで礼を尽くされない理由になって
いる。」

私はそんな男だった。
もちろん今もそのままのはずだ。
そして…豊彦もそうだと思う。

しかし 見ようともせず無意識に心の深奥に
しまいこんだものに今では気づき 認めている。

私も豊彦も 成長段階における大きな喪失から
自身の心をかばうために
自己による自己把握と他者による自己把握の
あるべき統合をやめてしまった男だったのだ
と思う。

私たち2人の人生の共鳴・共振はおそらく
ほかの人たちよりも強かったため 時折目眩に
襲われながらの読了だったのである。

まだ読んでいない人のために ストーリーへの
言及は最小限にとどめるが
やはり…道彦の命名の場面では
言葉にできぬほどのあたたかさと感動に
衝き動かされてしまった。

梨木香歩氏の作品に出会ってからの自分の変化に徐々に気づき始めている私である。
それは喜び以外の何物でもないが
「以前の自分」が見失ってきたものの大切さと
夥しさに 寂しさをかみしめる私でもある。

半世紀を生きてようやく成長を再開した私の魂を
静かに見守れる自分になれそうだ。

それは、梨木作品の霊力でもあるのである。

レビュー投稿日
2014年10月3日
読了日
2014年10月3日
本棚登録日
2014年9月20日
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