渡りの足跡 (新潮文庫)

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本棚登録 : 453
レビュー : 40
著者 :
greenflashさん  未設定  読み終わった 

私には、梨木香歩さんの文章について
語れるほどの何も持ってはいない。

それでもちょっぴり
この本で分かったような気がすることを
かいつまんで紹介してレビューとしたい。

渡りの足跡を追う、梨木さんの立ち位置に
背筋が伸びる思いがする。

筆者は、種としての生きものを
きちんと意識しつつ、しきりに「個体」と
いう呼称を用いている。様々な鳥たちは
彼女にとって、個々に向き合い、自分という
人間の、生きものとしての品格を証明しようと
試みる相手なのかもしれない。

人もまた、渡る。
知床開拓団の1人だったあや子さんの言葉や
身振りを再現してみせる筆者の文章の、
それはそれは饒舌なこと。あや子さんのことが
好きでたまらないことが、梨木作品の愛読者には
間違いなく伝わるだろう。

人もまた、還る。
そこでしか生きられないという消極的な選択
ではなく、そこで生きるという確かで強いものを
心に燃やして。そこがまったく見たこともない場所であっても、生きると決めた場所へ…人も鳥も
還るのだ。

そんなふうにして見たこともない知床で生きると
決めた、あや子さんの言葉が大好きだ。

…人間って、行ったとこで、
生きていくなりのこと。

梨木香歩さんの作品には、梨木さんと梨木さんと向き合ったたくさんの生きもの(もちろん人間も含む)の生命エネルギーがぎゅうぎゅうに詰め込まれていると思う。

決まり切った言葉などで表現されてきた自然など
忘れてしまえ! 誰にともなくそう叫びたい。

季節感がどうだとか、閑静な趣きがどうだとか
言う前に、人間の先入観や予定調和で満たされた
心を解き放たなければ、私たちはいずれ、この
自然の中で個体としてその命を燃やす力を
失ってしまう。きっと。

レビュー投稿日
2016年4月29日
読了日
2016年4月29日
本棚登録日
2016年3月30日
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